MAGNA CARTA
マグナ・カルタ
訳者より
イギリスは世界で最初に立憲君主制をとった国です。しかしその憲法(Constitution、国制)は一つの法典としてまとめられておらず数多くの成文法と慣習法から構成されています。現役の成文法の中で最も古いのはマグナ・カルタですがネット上で読める全文の和訳が見つからなかったので以下に訳してみました。なお以下は一番古い1215年版です。現在も一部が有効とされているのは1225年版です。
マグナ・カルタの原文はラテン語で書かれており、以下はその英訳を和訳したものです。
原文:https://www.bl.uk/magna-carta/articles/magna-carta-english-translation
本文
神の御恵みによりイングランド王、アイルランド主、ノルマンディーおよびアキテーヌ公爵、アンジュー伯であるジョンより、大司教、司教、大修道院長、伯爵(*earl)、直臣(*baron)、裁判官、林務官、州長官(*sheriff)、家令、召使、そしてそのすべての役人と忠臣たちへ、挨拶を送る。
朕と朕の祖先と後継者の魂の健康のために、神の栄光のために、聖なる教会をより高からしめること、朕の王国のより良い秩序を、カンタベリー大司教、全イングランドの主教、聖ローマ教会の枢機卿である朕の師父ステファン、ダブリンのヘンリー大司教、ロンドンのウィリアム司教、ウィンチェスターのピーター司教、バースとグラストンベリーのジョセリン司教、リンカーンのヒュー司教、ウスターのウォルター司教、ウィリアム司教コベントリー、ロチェスターのベネディクト司教、副助祭で教皇宮廷のメンバーであるパンドゥルフ師、イングランドのテンプル騎士団長の兄弟アイメリック、ペンブローク伯爵のウィリアム元帥、ソールズベリーのウィリアム伯爵、ワレンのウィリアム伯爵、アレンデルのウィリアム伯爵、スコットランド城主であるギャロウエイのアラン、ワリン・フィッツ・ジェラルド、ピーター・フィッツ・ハーバート、ポワトゥーの家令であるユベール・ド・バーグ、ヒュー・ド・ネヴィル、マシュー・フィッツ・ハーバート、トーマス・バセット、アラン・バセット、フィリップ・ドーベニー、ロバート・ド・ロッペリー、ジョン・マーシャル、ジョン・フィッツ・ヒュー、およびその他の忠臣の助言によって、神の御前に知らなければならない:
(1)最初に、朕はイングランドの教会は自由であり、その権利(*right)は削減されず、その自由特権(*liberty)は損なわれないことを神の御前に誓い、この憲章によって朕と朕の後継者たちの治世において永遠に確認する。朕と朕の直臣たちとの間に実際の紛争が発生する前に、朕が朕の自由意志によって教会の選挙―それが最大の必要性と重要性をもつ権利である―の自由を勅許状によって認め、そしてこれを教皇イノケンティウスIII世に確認させるようにしたことに見る朕の意思を知るべし。朕はこの自由を自ら遵守し、それが後継者たちによって永遠に誠実に遵守されることを望む。
また、以下に書かれている朕と朕の後継者が授けるすべての自由特権を、朕の王国の全ての自由人たち(*free men=封建的権利の所有者:非自由人=地面付の小作人)もその者らとその者らの後継者のために保有し、維持することを朕は朕と朕の後継者たちの治世において永遠に許可する:
(2)軍務のゆえに国王の土地を直接所有する伯爵、直臣、または他の者が死亡し、その死後、その者の後継者が成人であり、「相続料(*relief)」の義務がある場合、相続人は遺産から古来の規模の「相続料」の支払いをしなければならない。つまり、伯爵の後継者などは、伯爵の領地全体に対して100ポンドを支払うものとする。騎士の後継者などは大抵の騎士の「禄高(*fee)」である100シリング、そして「禄高」の古来の用法に従って、より少ない義務を負っている者はより少ない支払いをすることとする。
(3)しかし後継者やそうした者が未成年で被後見人である場合、その者は成人すれば「相続料」または罰金なしでその者の相続財産を得る。
(4)未成年の後継者の土地の後見人は、合理的な収入、慣習的な禄高、および封建的奉仕(*service)のみをその土地から受け取らなければならない。その者は人や財産を破壊または損傷することなくこれを行わなければならない。もし朕が土地の後見人の役を州長官、または朕に収入分の責任を負うことができる誰かに与え、その者が破壊または損害をもたらした場合、朕はその者から補償を取り立て、土地は同じ「禄高」の、朕に収入分の責任を負うことができるか、あるいは朕がその者らに割り当てた人々に責任を負うことのできる、二人のそれに相応しい賢明な者に委ねられる。朕がそうした土地の後見役を誰かに与えたり売ったりした場合、その者が破壊や損害をもたらした場合、後見役はその者の手から同じ「禄高」の、同様に朕に収入分の責任を負うことのできる、それに相応しい賢明な2人に引き渡される。
(5)後見人がそうした土地で後見をしている限り、その者は土地自体の収入から家、庭園、養魚場、池、水車、およびそれに関わる他のすべてのものを維持しなければならない。後継者が成人したら、後見人は季節が必要とする、土地からの収入が合理的に負担できるような鋤を引く牛馬と農耕器具をつけて土地全体を後継者に返さなければならない。
(6)結婚により後継者になれるが、社会的地位の低い者はなれない。結婚の前にそのことは後継者の近親者に知らされなければならない。
(7)夫の死後、未亡人はその者の持参金と相続財産をすぐに問題なく手にすることができる。その者はその者の寡婦産、持参金、その者と夫がその死の当日に共同で保持していた相続財産に対しては何も支払わないものとする。その者は夫の死後40日間その者の夫の家に住むことができ、この期間内にその者の寡婦産はその者に割り当てられるものとする。
(8)未亡人は夫がいないままでいることを望む限り、結婚を強いられない。しかし、その者が国王の土地を所有している場合、王室の同意なしには結婚しないことを保証しなければならず、また他のどんな領主の土地を持っている場合でもその同意を得ずに結婚してはならない。
(9)債務者が借金を払うのに十分な動産を持っている限り、朕も朕の役人も借金のかたに土地や地代を差し押さえることはない。債務者自身が債務を履行できる限り、債務者の保証人を差し押さえてはならない。資産が不足しているために債務者が債務を履行できない場合、保証人たちはその責任を負わなければならない。保証人たちがそう望むなら、債務者がその者たちへの借りを返したことを明示できない限り、その者たちが債務者のために支払った債務が完済されるまではその者の土地と地代を手にしても良い。
(10)ユダヤ人から金銭を借りた者が借金を返済する前に死亡した場合、その者の後継者は、その者が土地を所有しているかどうかに関係なく、未成年である間は借金の利子を支払わなくてよい。そのような債権が王の手に渡った場合、債券に明示された元本以外は支払わなくてよい。
(11)ユダヤ人に金を借りている者が死亡した場合、その妻はその者の寡婦産を所有し、そこから借金に対して何も支払わなくともよい。もし夫が未成年の子供たちを残していたなら、その入用は夫が所有していた土地の大きさに対して相応しい規模で提供されても良い。借金はその封建領主のための奉仕を除いた後の残余財産から支払われる。ユダヤ人以外の者に対する債務も同様に扱われる。
(12)朕の臣民の誰かが長男を騎士にするか、長女を(一度)結婚させるための身代金(*ransom)のためでないならば、朕の王国ではその全体的な同意なしに「軍役代納金(*scutage)」または「支援金(*aid)」を徴収することはできない。これらの目的のためには合理的な「支援金」を徴収することだけが許される。ロンドン市からの「支援金」も同様に扱われる。
(13)ロンドン市は陸路と水路の両方で、すべての古来の自由特権と自由な習慣を享受できなければならない。また、朕は他のすべての都市、自治都市、町、および港がすべての自由特権と自由な習慣を享受することをも望み、許容する。
(14)「支援金」―上記の3つの場合を除く―または「軍役代納金」の査定についての王国の全体的な同意を得るために、大司教、司教、大修道院長、伯爵、および高位直臣を手紙で個別に召喚する。朕は朕の土地を直接持っている者に州長官や他の役人を通じて全体的な召喚状を発行させ、決まった日に(少なくとも40日前に通知する)、決まった場所に集まらせることとする。すべての召喚状には、召喚の理由を記載する。召喚状が発行された場合、召喚された者全員が出頭していなくても、当日予定された業務は出席者の決議に従って前進するものとする。
(15)今後、朕は何者もその者の自由な領民から「支援金」を徴収することを禁ずる。ただし領民がその長男を騎士にするか、その長女を(一度)結婚させるときの身代金は例外である。これらの目的のために合理的な「支援金」を徴収することだけが許される。
(16)何者も騎士の「禄高」、あるいはその他の自由保有の土地に相応ではない奉仕を行うことを強制されてはならない。
(17)通常の訴訟は宮廷について回るのではなく、決められた場所で行われるものとする。
(18)奪われた土地の回復(*novel disseisin)、土地相続(*mort d’ancestor)、および空席となっている聖職への推挙(*darrein presentment)の審問を行うのは適切な州裁判所だけである。朕自身は、または朕が海外にいて不在の場合朕の首席裁判官は、年4回、各州に2人の裁判官を送る。これらの裁判官は州自体によって選出された州の4人の騎士とともに、法廷に適した日程と場所で州裁判所において巡回裁判を行う。
(19)巡回裁判が州法廷の日に開かれず、多くの騎士と自由(*土地)保有者がそこに居残っていた場合、なされるべき仕事の量を鑑みた上で、法廷にいる者で事足りるのであれば裁判を運営してもよい。
(20)些細な罪の場合、自由人はその罪の程度に応じてのみ罰金を科され、深刻な犯罪には相応の罰金が科されるが、暮らしが立ち行かないほどほど重くは科されない。同様にその者らが王室の慈悲に与った場合、商人はその者の商品を、農奴は農器具を免除される。近隣で信頼されている者たちが宣誓の上でそう評価した場合を除き、こうした罰金は課されないものとする。
(21)伯爵と直臣はその同等者によってのみ罰金が科せられ、過料は罪の重さに比例する。
(22)聖職者の俗人財産に科される罰金は、その者の教会での聖職位に関係なく同じ原則に基づいて査定されるものとする。
(23)町や個人は川に橋を架けることを強制されない。ただしそうするべき古来の義務がある場合を除く。
(24)州長官、城主、検死官、またはその他の王室の役人は王室の裁判で裁かれることはない。
(25)すべての州(*county≒shire)、郡(*hundred)、郡(*wapentake≒hundred)、十分の一郡(*tithing)の古来の地代は変更せず、増額しないものとする。ただし王室の占有する荘園を除く。
(26)国王の俗人「禄高」を得ている者の死亡時に、州長官または王室の役人が国王に対する債務の履行を要求する特許状を作成した場合、借金の額に対する死者の俗人「禄高」の中に見出される、相応しい者によって査定された動産をその者らが差し押さえ、表にすることを合法とする。残余財産が死者の意思を遂行するために執行者に渡される際、債務が全て履行されるまでは何も取り除かれてはならない。債務が国王に対するものではない場合、妻と子供の合理的な割り当て以外のすべての動産は死者の財産とみなされる。
(27)自由人が遺言なしで死んだ場合、その者の動産は、教会の監督の下でその近親者や友人に分配される。その者の債務者の権利は保護される。
(28)城主または他の王室の役人は売り手が自主的に後払いを申し出ない限り、いかなる者からも即時に支払いをすることなく穀物または他の動産を徴発してはならない。
(29)城主は騎士が自分で守衛を引き受けるか、合理的な理由があって他の適切な者を代理とする意思がある場合、騎士に城の守衛代金を支払わせてはならない。軍務に就いた、あるいは派遣された騎士はこの任務の期間中、城の守衛を免除されるものとする。
(30)州長官、王室職員、または他の者は、その同意なしに自由人から輸送のために馬または荷車を徴発してはならない。
(31)朕も王室の役人も、所有者の同意なしに朕の城や他の目的のために木材を徴発することはない。
(32)朕は重い罪で有罪判決を受けた者たちの土地を1年と1日より長く手元に置かず、その後それらはその「禄高」の関係する領主に返還される。
(33)すべての魚堰はテムズ川、メドウェイ川、およびイングランド全土から撤去する。ただし海岸を除く。
(34)自由人がそれによって自分の領主の法廷で裁判を受ける権利を奪われる可能性がある場合には、今後いかなる土地の所有権に関しても命令書(*Praecipe)と呼ばれる令状を発行してはならない。
(35)王国全体にワイン、エール、穀物の標準尺度(ロンドン・クオーター(*500ポンドを意味する))を作らねばらない。また染色された布、ラセット(*小豆色に染められた毛織物)、およびハーバージェクト(*表面が鎖帷子のような粗い毛織物)の幅を標準化しなければならない。すなわち織り端の間を2エル(*当時の単位で1エルは45インチ)とすること。重量も同様に標準化しなければならない。
(36)将来は、生命または手足の尋問(*宗教裁判)の令状の発行に対して、何も支払うことも受け取ることもないものとする。それは無償で提供されるべきであり、拒否されてはならない。
(37)その者が「禄高農場」(*fee-farm)、「農業賃借地」(*socage)、または「市民賃借地」(*burgage)にとして王室の土地を所有し、騎士の奉仕によって他の何者かの土地も所有している場合、「禄高農場」が騎士の奉仕によるものでない限り、「禄高農場」、「農業賃借地」、または「市民賃借地」として他の者の「禄高」に属する土地を朕は後見しない。刀や矢などの奉仕によって王室から少額の財産を得ていたからといってその者の後継者や他の者の土地を後見しない。
(38)将来は、いかなる役人もその真実に対する信頼できる証人を出さずに、その者自身の裏付けのない陳述に基づいてその者を裁判にかけることはできないこととする。
(39)いかなる自由人も、いかなる方法であれ、逮捕または投獄されたり、権利または所有物または法による保護を剥奪されたり、追放されたり、地位を奪われたりしてはならず、また朕がその者に兵を向けたり、他の者を差し向けたりすることはない。ただしその者の同等者の合法的な判断または土地の法律による場合を除く。
(40)朕は権利または正義を何者にも売らない、何者にも拒否せずまた遅延させない。
(41)すべての商人は古くからの合法的な慣習に従い、貿易の目的ですべての違法な徴集を受けることなく、陸路または水路によって傷つけられることなく、恐れることなくイングランドに出入りすることができ、イングランド内において滞在または旅行することができる。ただし、このことは戦時において朕と戦争をしている国の商人には適用されない。開戦時にわが国で発見されたそのような商人は、朕または首席裁判官が、朕と戦争している国でわが国の商人がどのように扱われているかを知るまで、その者や財産に害を与えることなく留置されるものとする。朕自身の商人が安全であれば、その者らも安全である。
(42)今後はいかなる者も王国の共通の利益のために、戦争中を除いて、短い期間、朕への忠誠を保ちつつ、陸路または水路で、傷つけられることなく、かつ恐れることなく朕の王国を離れたり戻ったりすることを合法とする。国の法律に従って投獄された者や犯罪者、朕と戦争している国の者、商人―上記のように対処される―はこの規定から除外される。
(43)ウォリングフォード、ノッティンガム、ブローニュ、ランカスターの「大所領(*honour)」のような「復帰不動産(*escheat)」、あるいは他の朕の「復帰不動産」である領地を持っている者がいる場合、その者の死後、その(*下位賃貸者である)後継者は領地が直臣の手中にあったなら直臣に対して行ったであろう「相続料」と奉仕のみを朕に提供するものとする。朕は直臣がそれを保有していたときと同じように「復帰不動産」を保有する。
(44)森の外に住んでいる者たちは、森の犯罪で逮捕された者の訴訟に実際に巻き込まれたり、保証人になったりしない限り、今後は一般召喚状に応じて森の王立裁判所に出頭する必要はない。
(45)朕は王国の法律を知り、それをよく守ろうとする者だけを、裁判官、城主、州長官、その他の役人に任命する。
(46)大修道院を設立し、その証拠としてイングランド王の勅許状や古来の土地保有権を持つすべての直臣は、当然のことながら大修道院長が不在の場合にはそれらの大修道院を後見することができる。
(47)朕の統治下で作られた全ての森林は、直ちに伐採するものとする。朕の統治下で作られた川岸も同様に扱うものとする。
(48)森林と養兎場、林務官、養兎場管理官、州長官とその使用人、または川岸とその管理官に関連するすべての悪しき慣習は、郡の12人の宣誓騎士によって直ちに調査され、その調査後40日以内に悪しき慣習は完全かつ取消せない方法で廃止されなければならない。しかし報告は最初に朕に、あるいは朕がイギリスにいない場合は朕の首席裁判官にされなければならない。
(49)朕はイギリス人が平和の担保や忠誠の奉仕のために朕に差し出した人質や宣言書を直ちにすべて返還する。
(50)ジェラール・ド・アーセの近親者をその公職から完全に排除し、今後その者らをイギリスで公職につけないようにする。問題となっているのは、エンゲラード・ド・シゴグネ、ピーター、ギー、アンドリュー・ド・シャンソー、ギー・ド・シゴグネ、ジェフリー・ド・マルティニーとその兄弟、フィリップ・マルクとその兄弟、甥のジェフリーとその追随者全員である。
(51)朕は平和が回復したらすぐに外国の騎士や弓兵、その従者、そして馬や武器によって王国に害をなすためにやってきた傭兵たちを王国から追放する。
(52)朕がその者の同等者の合法的な判断によらずに、土地、城、自由特権又は権利を奪った者に対して、朕は直ちにこれらを回復する。紛争がある場合、平和を確保するための条項(§61)で後述する25人の直臣の判断によってこの問題を解決するものとする。ただし、わが父ヘンリー王またはわが兄リチャード王によって、その者の同等者の合法的な判断によらずに何かを奪われ、または奪われた場合で、それが朕の手に残っているか、または朕の保証のもとに他人が持っている場合には、朕が十字軍に参加する前に訴訟が開始されたり、または朕の命令で調査が行われたりしていない限り、一般的に十字軍参加のために認められている期間の間それを猶予する。朕が十字軍から帰還したとき、あるいは十字軍を断念したとき、朕は直ちに完全な裁判を行うであろう。
(53)朕は、わが父ヘンリー王またはわが兄リチャード王が最初に植林し、伐採されることになった森林や、伐採されないことになった森林に関しても;また他人の「禄高」の中にあり、これまで第三者が騎士の奉仕によって保有していた「禄高」のおかげで守護権を得ていた土地の守護権に関しても;他人の「禄高」の中に設立され、「禄高」の領主が権利を主張している修道院についても同様に裁判を猶予する。朕が十字軍から戻ったとき、あるいは十字軍を断念したときには、これらの問題の苦情について直ちに完全な裁判を開くであろう。
(54)夫以外の誰かの死に関する女性の訴えによって何人をも逮捕したり、投獄したりしてはならない。
(55)国の法律に反して朕が不当に入手したすべての罰金及び不当に取り立てたすべての罰金は、平和を確保するための条項(§61)で以下に言及されている25人の直臣と、カンタベリー大司教スティーブンが出席できる場合にはスティーブン及び彼が同席を希望する他の者との多数決によって、すべて免除されるか、問題を解決しなければならない。大司教が出席できない場合には、大司教なしで手続を続行する、ただし25人の直臣のいずれかが自ら同様の訴訟に関与したことがある場合にはその者の判断は除外され、残りの25人によって他の誰かが一回限りの代役として選ばれ、宣誓するものとする。
(56)朕がイングランドまたはウェールズにおいて、ウェールズ人の土地、自由特権、またはその他のものをその者らの同等者の合法的な判断によらずに奪った場合には、直ちにその者にこれらのものを返還する。この論点に関する紛争は境界地方において同等者の判決によって決定されるものとする。イングランドにおける土地の保有にはイングランド法を、ウェールズにおける土地にはウェールズ法を、そして境界地方における土地には境界地方の法を適用する。ウェールズ人は朕と朕のものを同じように扱うものとする。
(57)ウェールズ人がわが父ヘンリー王またはわが兄リチャード王によって、その同等者の合法的な判断なしに何かを奪われ、または奪われた場合で、それが朕の手に残っているか、または朕の保証のもとに他人が持っている場合には、朕が十字軍に参加する前に訴訟が開始されたり、または朕の命令で調査が行われたりしていない限り、一般的に十字軍参加のために認められている期間の間それを猶予する。朕が十字軍から帰還したとき、あるいは十字軍を断念したとき、朕は直ちに完全な裁判を行うであろう。
(58)朕はすぐにルウェリンの息子、すべてのウェールズ人質、そして平和の保障として朕に届けられた宣言書をすべて直ちに返還する。
(59)スコットランド王アレキサンダーの姉妹と人質の返還、彼の自由特権と権利に関して、朕はイングランドの他の直臣と同様に彼を扱う。ただし彼の父であるウィリアム、前スコットランド王から朕が受け取った宣言書によって彼が異なる扱いを受けるべきである場合はこの限りではない。この問題は朕の法廷において彼の同等者の審判によって解決されるものとする。
(60)朕が認めたこれらの習慣と自由特権は、朕の王国において朕自身と臣民との関係に関する限りすべて遵守されることとする。わが王国のすべての人々には聖職者であれ俗人であれ、自分の部下との関係においてそれらを同様に遵守させよ。
(61)朕は神に代わって朕の王国のより良い秩序のために、そして朕と朕の直臣たちの間に生じた不和を和らげるためにこれらすべてのものを許可したのであり、朕はそれらが完全に、永続的な強さで、永遠に享受されることを望んでいるため、直臣たちに次の保障を与え、許可する:
直臣たちはこの憲章によって与えられ、確認された平和と特権を維持し、全力をもって守らせるために、その中から25名を選出する。
朕、首席裁判官、官吏、または朕の使用人が、何らかの点で誰かに対して違反を犯した場合、または平和条約もしくはこの安全保障の条項に違反した場合、その違反が前記25人の直臣のうち4人に知らされたときは、その者らは朕のもとに―または朕が王国に不在のときは首席裁判官のもとに来て―その違反を宣言し、直ちに償いを求めるものとする。朕、または朕が不在の場合には裁判長が、朕または裁判長に違反が宣言された日から起算して40日以内に償いを行わない場合には、4人の直臣はこの問題を25人のうちの残りの直臣に委ねるものとする。その者たちはその者たち自身が決定した償いを確保するまで、土地の共同体全体の支援を得て、朕の城、土地、財産など、朕自身と王妃と朕の子供たちだけを除いたあらゆるものを差し押さえ、あらゆる方法で朕を攻撃してよいこととする。償いを受けた後は、朕への通常の服従を再開することとする。
希望する者は誰でも、これらの目的を達成するために25人の直臣の命令に従い、その者と一緒になって力の限り朕を攻撃することを誓うことができる。朕はこの誓いを立てることを、希望するすべての者に公的かつ自由に許可し、いかなる場合にもこの誓いを立てることを禁止することはない。実際、朕はこの誓いを立てたくないわが臣民には、朕の命令によりこの誓いを立てるよう強制する。
25人の直臣のうちの1人が死亡または出国した場合、またはその他の方法で職務を遂行できない場合、残りの直臣はその裁量によってその者の代わりに別の直臣を選ぶものとし、その者らは元のように正式に宣誓するものとする。
25人の直臣の間で決定を求められた事項について意見の相違があった場合、出席者の過半数の評決は、これらの者が全員出席していたか、召集された者の一部が出頭を望まなかったか、出頭できなかったかにかかわらず、25人全員の一致した評決と同一の効力を有するものとする。
25人の直臣は、上記のすべての条項に忠実に従うことを誓い、その力の及ぶ限り、他の者にも従わせるものとする。
朕は自らの、あるいは第三者の努力によってこれらの譲歩または自由特権の一部を取り消しまたは縮小させる可能性のあるものを、誰からも手に入れようとはしようとはしない。万一そのようなものが手に入った場合にもそれは無効であり、朕は自らまたは第三者を介して、いかなる場合にもそれを利用しない。
(62)朕はこの紛争が始まって以来、朕と朕の臣民の間に生じた悪意、傷、恨みについて聖職者であれ平信徒であれすべての者を免除し、完全に赦した。さらに朕は、朕の治世の第16年(すなわち1215年)の復活祭から平和の回復までの間に起こった前記の紛争の結果として犯されたすべての罪をすべての聖職者と平信徒について完全に免除し、朕自身をも赦したのである。
さらに朕はカンタベリーの大司教スティーブン、ダブリンの大司教ヘンリー、上記の他の司教、およびパンドルフ師の印を押して、この保証と上述の譲歩の証拠となる特許状を直臣たちのために作成させた。
(63)イギリス教会が自由であり、わが王国の人々が、その者とその後継者たちのために、朕とその後継者のために、永遠にすべてのものとすべての場所において、これらのすべての自由特権、権利、譲歩を、その完全性と全体性において、良好かつ平和的に持ち、維持することを、朕の願いと命令とする。
朕と直臣たちはこのすべてのことを誠実に、そして偽りなく守ることを誓った。上述の者たちや他の多くの者たちを証人とする。
朕の治世の第17年の6月15日(すなわち、1215年:治世の新年度は5月28日に開始される)に、ウィンザーとステーンズの間にあるラニーミードと呼ばれる草地にて朕の手より贈る。
Keywords:マグナカルタ、前文、和訳、邦訳、大憲章
2021.6.12