ウェリントン公爵の死に寄せるオード

 

 

Ode on the Death of the Duke of Wellington

by

Alfred Tennyson




ウェリントン公爵の死に寄せるオード


アルフレッド・テニスン

 

 

 

 ウェリントン卿はワーテルローの戦いでナポレオンを破った名将です。チャーチルは「マラカンド野戦軍の物語」の中でこの詩の一節をエピグラフに使っています。また「サヴローラ」では自分の分身である主人公を「パリのアイアン・デューク」に準えています。

原文:
https://www.telelib.com/authors/T/TennysonAlfred/verse/maud/deathduke.html
過去の翻訳:
https://dl.ndl.go.jp/pid/962544/1/82
テニスン詩集 (泰西詩人叢書 ; 第18編)  井口正名 訳  大正15年

縦書きPDF

 

I.

 

偉大な公爵を葬ろう

帝国の嘆きとともに/

偉大な公爵を葬ろう

強大な国家が嘆き悲しむ物音の中に/

リーダーが倒れたとき、

戦士たちは嘆き悲しんで、戦士の棺を運ぶ、

そして、悲しみは村や大広間を暗くする。

 

 

II.

 

彼ゆえに私たちが嘆き悲しむ人物をどこに寝かせよう?

ここ、ロンドンの真ん中の絶え間ない喧騒の中に。

彼らのために彼が働いた人々の声が、

そして、彼らのために彼が戦った人々の足音が、

彼の骨の周りに永遠にこだまするように。

 

 

III.

 

ページェントを始めよう。悲しく、ゆっくりした、

万人の悲哀にふさわしい、

長い、長い行列を行かせよう、

そして、周りで大群衆を嘆き悲しませよう、

そして、悲しみをそそる軍楽を吹かせよう/

最後の偉大なイングランド人が倒れたのだ。

 

 

IV.

 

嘆こう、かつての彼の偉大さを思い出すなら、

私たちにとって、彼は最後の人物と思える。

見る人に通りから手を挙げて

軍人らしく、彼が挨拶することはもうない。

友よ、私たちの国家の最高神託は沈黙してしまった!

悼もう、長く続いた家系に生まれ、

政治家であり軍人であって、穏健で、毅然とした、

彼自身の全てが公益であった人物を。

悼もう、最も影響力があり、

最も明白に野心の罪を犯しながら、

最も偉大でありながら、最もてらいがなく、

議会でも戦場でも偉大だった、

当代随一の指揮官を、

常識も豊かで、

そして、最も偉大なものだけがそうであるように、

素朴で崇高な人物を。

ああ、すべての人が知っている、良き灰色の頭よ、

ああ、すべての人が予言と受け取った声よ、

ああ、真実の時にこそ真実の、鉄の神経よ、

ああ、ついに倒れた力の塔よ

吹く風の中、堅固に立っていた塔よ!

私たちはそのような人物ゆえに嘆き悲しんでいるのである。

長い自己犠牲の人生は終わった。

偉大なる、世界の勝利者の中の勝利者の姿を見ることはもうない。

 

 

V.

 

すべてが終わった。

贈り主に感謝を捧げよう、

イングランドよ、あなたの息子のために。

鐘を鳴らそう。

贈り主に感謝を捧げよう、

そして彼を土に返そう。

街と川を照らす

金の十字架の下に、

賢人と勇者の間に

彼は永遠に眠る。

鐘を鳴らそう、

そして敬虔な人々は

翼を持った塔のような馬車と漆黒の馬を見る。

葬儀の会衆の暗い色の中で、

偉業の光彩によってそれを輝かせよう。

鐘を鳴らそう、

そして心の中には、さらに深い鐘が鳴り響く/

そして悲しみの讃美歌が響き渡る、

黄金の十字架のドームの中に/

そして、雷のような弔砲が鳴り響く/

かつて彼はその音を聞いていた。

彼は指揮官として、

勝利を告げ、破滅を告げるその轟きを

何度も何度も、数多くの国で聞いていたのである。

彼があの深い響きとともに

王国と王を恥辱から守るために働いていた時/

亡き私たちの指揮官はあの深い響きとともに、暴君に教訓を与えたのである、

そして彼はあの恐ろしい音によって、

賞賛と非難がともに

その持ち主が穏やかな人物だったことを否定しない

その偉大な名前を主張したのである。

ああ、市民の詩才よ、このような名前に、

このような名前に、末永く

このような名前に、

名声の幅広い小道を、

そして、いつまでも響き続ける歌の大通りを取って置け!

 

 

VI.

 

「賓客のようにやってくるのは誰だ、

旗とともに、音楽とともに、兵士とともに、司祭とともに、

泣いている国民とともにやってきて、私の眠りを妨げるのは?」

無敵の海の男(*ネルソン提督)よ、これが彼です、

あなたが海でそうだったように、陸で偉大だった男です。

あなたの島はあなたを愛しています、

世界が始まって以来、最も偉大な船乗りよ。

さあ、くぐもったドラムのロールとともに、

あなたのもとに最強の兵士がやってきます/

それは、彼はあなたが海でそうだったように、

陸で偉大だったからです。

彼の敵はあなたの敵でした/彼は私たちの自由を守ってくれたのです/

ああ、彼を歓迎して下さい、

これが、私たちの豪華な儀式にふさわしく、

そして、あなたのそば(*セントポール大聖堂)で休むにふさわしい彼です/

これが、百の戦いに勝ち、

イングランドの大砲を奪われたことがない、

イングランドの偉大な息子です/

これが、遠く離れた

アッサイェ(*インド)で無数の敵に

燃えるような少数の部下を率いて激突し、勝利した彼です/

そして、もうひとつの太陽の下、

後日の戦いにおいて、

恐れ慄くリスボンに巡らされた

三重の堡塁は、彼が苦心して

築いた巨大な防衛線でした、

そこで彼は大変な窮地に陥りましたが、

そこから新たに出撃して、

そして、次々と勝ち進んで、

鳴り響くラッパ、兵士たちの喧騒、

轟く大砲、ぶつかり合う武器、

そして、敵に殺到するイングランド軍によって

その連中をフランスへと、

無数の打撃を加えてフランスへと、叩き返し、

打ち捨てられたブドウ畑から

丘の向こう、ピレネーの松の向こうに

フランスの鷲が飛び去るまで、

谷と峡谷を追撃したのです。

その戦争は、そのように終わりました。

再び、獰猛な鷲は怒りに立ち上がり、

ヨーロッパに影を落とす翼を駆って、

そして、王たちの玉座を要求しました/

しかし、あの騒がしい安息日(*1815年6月15日)に義務の鉄の王冠しか求めなかった人物が

略奪者を叩きのめしたのです/

絶望の攻撃の日!

すべての苦難の方陣は突進し、

突撃は波のように押し寄せては、泡と消えました/

ついに、プロイセンのトランペットが鳴りました/

長い苦しみに満ちた空気の中に

天は突然、歓喜の光を放ったのです、

そして、わが軍はなだれを打って、突撃して、打ち勝ったのです。

長い忍耐が何を可能にするかを

偉大な兵士は教えてくれたのです

世界を揺るがした、このワーテルローで!

無敵の海の男、優しく、そして真実な、

そして、彼のように純粋で、狡猾さに汚れていない、

ああ、銀色の岸壁の島の守護者よ、

ああ、バルト海とナイル川の支配者よ、

もし、ここで起こる何事かが

神聖なものたちの中で優れて魂に触れたならば、

もし、祖国への愛があなたの心を少しでも動かしたならば、

喜んでください、彼の骨はあなたのそばに安置されるのですから。

そして何世紀にもわたって、民衆の声を届けましょう

喝采の嵐を、

民衆の声を届けましょう、

全ての人間が捧げる名誉の証であり、こだまである、

民衆の喜びの声を、

市民のお祭り騒ぎと華麗な式典、そして競技会を楽しむ声を届けましょう、

彼らの偉大な指揮官の主張を繰り返す声を届けましょう、

誉、誉、誉、彼の誉、

彼の名前の永遠の誉とともに。

 

 

VII.

 

民衆の声!しかし民衆とは私たちのことだ。

考えなしの暴徒と無法な権力に惑わされて

他の人々は皆、崇高な夢を忘れてしまう、

しかし、私たちをこの島に、荒れた海と暴風雨の中に、

神に従うブリトン人を無造作に置かれた神に感謝しよう、

私たちは、戦って、私たちのこの島を守ってくれた

偉大な男たちに借りを返すための、

限りない愛と尊敬と哀悼の声を持っている。

そして私たちの島を、おお、神よ、獣じみた支配から守り給え!

ああ、政治家たちよ、私たちを守れ、

ヨーロッパの高貴な眼を、魂を守れ、私たちの高貴なイングランドを丸ごと守れ、

そして、人々と古来の玉座の間に蒔かれた

一つの真の自由の種を守れ、

しらふの自由、

私たちの穏やかな王たちへの忠誠心はそこから生まれるのだ!

大衆の誤りが砕け散るまでそれを守るなら、

あなた方は人類の救済を助けることになる、

そして、群衆が正気を取り戻し、王冠が公正なものとされるまで

あなた方は未熟な世界の知性の行進の訓練を手助けする

ことになる。

しかし、もう怠惰な過信で見て見ぬふりをしてはいけない。

あなた方の軍勢を率いた彼のことを思い出そう/

彼は神聖な海岸を守るようあなた方に命じた。

大砲は海岸の壁で朽ち果てている/

彼の声は、あなた方の会議場で沈黙する

永遠に/そしてどんな大嵐が来ても

永遠に沈黙を守る/雷が落ちたとしても、

沈黙している/しかし

彼があなたたちに話したことを思い出そう/

彼は時代に阿って真実を売ったことはなく、

永遠の神の力に逆らったこともない/

上も下もかまびすしい世界に、

彼の噂は濁流のように流れた/

その人生は仕事だった、その言葉は

人生から切り出された無骨な格言に満ちていた/

彼は決して敵を非難しなかった/

八十の冬を重ねてからも、彼は他者の権利を踏みにじる

すべての利己主義者たちを、一喝で凍り付かせた。

真実を語ったのは私たちのイングランドのアルフレッド大王だった/

真実を愛したのは私たちのイングランドの公爵だった/

いかなる記録が出てこようとも

彼が恥じることは決してないだろう。

 

 

VIII.

 

見よ、他国の勇士たちを後に従えて、

今、栄光の埋葬に向かってゆっくりと運ばれてゆく、

この栄光の戦いのリーダーを、

気前のよい「栄誉」がその上に広げた手からすべての星を降らせ、

富裕な「幸運」が角杯をすべて飲ませた

彼を。

そう、栄達を求めるのではなく

国を守り、仕えた彼のために

すべての良いことを用意しよう。

私たちの荒々しい島の物語の中で、

義務の道が栄光への道だったことは一度や二度ではない。

それを歩む者は、ただ義に渇いているだけである

そして自らの旅を終える前に

彼は自分への愛を抑えるようになるだろう、

頑強なアザミが、艶やかな紫色を放って

すべての官能的な庭のバラを凌駕していることに

彼は気づくのである。

私たちの美しい島の物語の中で、

義務の道が栄光への道だったことは一度や二度ではない。

その命令に従って、

心と膝と手の労苦に耐え

長い峡谷を遥かな光に向かって進み、

それを上り切って、勝利した彼は、

よじ登って来た「義務」のぐらつく険しい岩山が、

私たちの神ご自身を月とし、太陽として輝く

平らな高原にほど近いことに気づく。

彼はそのような存在だった/彼の仕事は終わった。

しかし、人類が生き永らえる限り

彼の偉大な模範を、あらゆる国から見えるように、

巨大なものとして打ち立てよう、

そして、兵士の堅固さと、政治家の清廉さを守ろう/

あらゆる国で、あらゆる人間の物語の中で

義務の道が栄光への道になるまで。

そして、彼がその竈を恥から救った国に、

何世代にもわたって宣言させよう、

市民の祭りと華麗な式典と競技会で、

そして都市が灯火で長く飾りつけられるとき、

彼らの常に忠実だった鉄のリーダーの名声を

誉、誉、誉、彼の誉、

彼の名前の永遠の誉とともに。

 

 

IX.

 

安らかに、私たちが見ることのない遠い夏に

まだ生まれていない人々の舌が

彼の勝利を歌うだろう。

安らかに、それは辛い日

その家長的な膝につい最近まで小さな子供たちが

しがみついていた人物ゆえに。

安らかに、それは辛い日

かつてヨーロッパの重みと運命が

その手と心と頭脳に懸かっていた人物ゆえに。

私たちの辛さよ、彼の利益になれ!

私たちとともに、

人間を超えた存在が、

私たちの盛大な儀式を見守っておられるに違いない。

私たちは目に見えない方を敬おう/

私たちは敬い、そして控えよう、

戦いについて大声で空しく語ることを、

そして、騒々しい争いの記憶について気ままに語ることを

荘厳な寺院にふさわしい

賢明な謙虚さを持って:

私たちは敬い、そして聴こう

永遠に向けられた

音楽の黄金の潮を、

彼がワーテルローで戦ったときよりも、

そして、常に勝利者であったときよりも

さらに崇高な、なすべき仕事が

他にあるという真実を疑わないまでに

私たちの心と希望は高められている。

巨大な年月が丘を持ち上げ、海岸を消し去り、

そして永遠に作っては壊すことを繰り返して、

その意志を行おうとも、

私たちの周りを無数の世界が、

私たちのものとは違う力と、違う生命とともに

転がって行こうとも、

魂よりも偉大なものを私たちが知ることがあるだろうか?

神と神のような人々を私たちは信頼している。

静かに、葬送行進曲が人々の耳に響く/

暗い色の群衆が揺れ、嗚咽と涙がこぼれる/

黒い大地が大きく口を開ける/人は消える/

灰は灰に、塵は塵に/

あんなに偉大に見えた彼は去った―

彼は去った、しかし何者も、ここにある、

彼自身が作り出した力を、彼から奪うことはできない、

そして私たちは彼が国家において

はるかに先を行く人物だったことを、

そして、彼が人が被せられるいかなる花冠よりも

真実の王冠を被っていることを信じている。

彼の名声について、これ以上を語るのは止めよう、

現世の空想を捨てよう、

そして広い大聖堂に彼を安置しよう、

神よ、彼を受け入れ給え、キリストよ、彼を迎え入れ給え!

 

 

 

 

 

 

 

2023.10.28