アドナイス

 

Adonais

An Elegy on the Death of John Keats

by

Percy Bysshe Shelley

 

アドナイス

ジョン・キーツの死に寄せる挽歌

パーシー・ビッシュ・シェリー

 

 


原文:
https://www.poetryfoundation.org/poems/45112/adonais-an-elegy-on-the-death-of-john-keats
解説:
https://www.shmoop.com/study-guides/poetry/adonais/summary/stanza-1
https://poemanalysis.com/percy-bysshe-shelley/adonais-an-elegy-on-the-death-of-john-keats/

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私はアドナイスのために泣く―彼は死んでしまった!
ああ、アドナイスのために泣け!私たちの涙が、
愛しい頭に降りている霜を溶かすことができなくとも!
そして悲しき「時」よ、お前は全ての時の中から選ばれたのだ
私たちが失ったものを悼み、お前の無名の仲間を目覚めさせ、
そしてお前自身の悲しみを彼らに教えよ:
「私こそアドナイスが死んだ『時』である/
『未来』が敢えて『過去』を忘れない限り、彼の運命と名声は
永遠に響き、輝き続けるのだ!」と。

II
彼が倒れた時、あなたの「息子」が、暗闇の中から飛んで来た
矢に貫かれて倒れた時、偉大なる「母」よ、
あなたはどこにいたのか?アドナイスが死んだとき
何もできなかったウラニア(*天上のアフロディーテ、アドニスの養母)はどこにいたのか?
彼は迫り来る「死」の重荷を、その下に眠る死骸を嘲笑う花のように、
その調べで飾り、隠していたのである、そのすべての褪せていく調べを
「エコー」の一人が柔らかで魅惑的な息でよみがえらせていたとき
彼女は自分の楽園で、ベールで目を覆い、
「エコー」たちに耳を傾け、満ち足りていたのだ。

III
ああ、アドナイスのために泣け―彼は死んでしまった!
目覚めよ、憂いの「母」よ、目覚めて、そして泣け!
しかし、そうしたところで何になるだろう?あなたの燃えるような涙を
火床の上で鎮め、あなたの盛んな心を
静かに、不平を言わずに眠っている彼のものと同じにせよ/
彼は行ってしまった、全ての賢い者、美しい者が
降りて行くところへ―ああ、好色の「深淵」が
彼を生者の世界に返してくれるなどと夢見てはならない/
「死」は彼の沈黙を喜び、私たちの絶望を笑う。

IV
最も音楽的な会葬者たちよ、もう一度泣け!
新たに悲しめ、ウラニア!彼(*ジョン・ミルトン、1608―1674、「失楽園」の著者)は死んだ、
不滅の詩の「父親」だった彼は、
盲目になって、年老いて、孤独に死んだ、
そのとき、彼の国の高慢さ、司祭、奴隷、そして自由の殺害者が、
欲望と血にまみれた数多くの憎むべき行いによって
彼を踏みにじり、嘲笑したのである/彼は怯むことなく死の淵へと進んで行った/
しかし、彼の澄み切った「魂」は今も地上に君臨している/
光の三番目の息子である。
(*シェリーはミルトンをホメロス、ダンテに次いで三番目に偉大な光の詩人と考えていた)


最も音楽的な会葬者たちよ、新たに泣け!
誰もが敢えてその輝かしい地位に上ろうとした訳ではない/
そして、太陽が沈んでから夜が明けるまで、
自分たちの蝋燭が灯り続けていることの(*小さな)幸せを
知っていた人々の方が幸せだった/より崇高だった他の人々は、
人や神の嫉妬に満ちた怒りに打たれて、
その盛りに沈み、消え去ったのである/
そして、労苦と憎悪を経て、名声の安住の地に至る
茨の道を歩きながら生きている人々もいる。
(*シェリーは匿名の中傷がキーツの死の一因になったと考えていた。)

VI
しかし今や、あなたの最も若く、最も愛する者は死んだ、
悲しむ乙女が愛する淡い花のように、(*キーツの詩「イザベラ」より)
あなたがやもめ暮らしの中で、
露ではなく、真実の愛の涙で養った子は育った/
最も音楽的な会葬者たちよ、新たに泣け!
あなたの最愛の、そして最後の希望は、
果実を期待されたのに、咲く前に花びらが
枯れてしまった花のように、空しくなった/
折れたユリが倒れている―嵐が通り過ぎたのである。

VII
王者然とした「死」が、ほの暗い宮廷を構えて美と衰退を守っている
あの名高い「都」(*キーツの最期の地、ローマのこと)に
彼はやって来た/そして最も純粋な命によって
永遠の中に墓場を買ったのだ―行こう!
急げ、イタリアの青空の円蓋こそ
彼の墓の天井にふさわしい!
まるでさわやかに眠っているように横たわっているとき/
彼を起こしてはいけない!彼は確かにすべての悪しきことを忘れて。
深く澄んだ休息に浸っているのだから。

VIII
彼が目覚めることはもうない!
黄昏の部屋に白い「死」の影が
速やかに広がる、そしてドアの前には
目に見えない「腐敗」が、
彼女の薄暗い住まいに至る、彼の苛酷な道のりに付き添うために待っている/
永遠の「飢餓」が座っているが、彼女の哀れみと畏怖は
その青ざめた怒りを鎮め、
暗闇と変化の法則が彼の眠りに死のカーテンを引くまで、
この際立って美しい獲物を汚したりはしない。

IX
ああ、アドナイスのために泣け!素早い夢たち、
情熱の翼を持った思考の奉仕者たち、
彼がその若い魂の小川のほとりで養い、
その音楽だった愛を教え込んだ彼の羊の群れは、
もう彷徨うことはない―
燃え立つ脳から脳へと、もう彷徨うことはない、
そして、彼らが飛び出して来た場所でうなだれる/
そして冷たい心臓の周りで自らの運命を嘆く、甘い痛みの後、
彼らは二度とそこに集まることも、帰ることもできない。


そして、震える手が、彼の冷たい頭を抱きしめる、
そして月光の翼で彼を扇いで、泣く、
「私たちの愛、私たちの希望、私たちの悲しみは死んでいない/
見よ、彼の虚ろな目の絹糸のような睫毛を、
眠っている花の上の露のように、『夢』が
彼の脳からこぼした涙がそこにある。」
失われた楽園の失われた天使(*死)よ!
彼女はその涙が彼女自身のものだということに気づかなかった/染み一つ残さず、
雨を降らせた後の雲のように、彼女は消えていった。

XI
ある存在(*女神)は、輝く壺の、星のように光る雫で、
防腐剤を塗るように、彼の軽い手足を洗った/
別の存在は、彼女の豊かな巻き髪を切った、そして
凍った涙を真珠のように飾った花かずらのような
花輪を彼の上に載せた/
悲しみに打ちひしがれた、もう一つの存在(*アルテミス)は
彼女の弓と翼の生えた矢を折ろうとしている、より弱いものの損失で
大きな損失に抗おうとするかのように/
そして、彼の凍りついた頬を炙る、刺々しい火を鈍らせようとするかのように。

XII
彼の口に、また別の輝きが舞い降りた、
その口は常に、息を吸い込んで、
吐き出す息に、用心深い機知(*匿名の中傷)を突き抜け、
その下で喘いでいる心臓に、
稲妻と音楽を届ける力を与えたのである:湿った死が
彼の氷のような唇から漏れる息を止めた/
そして、消えゆく流星が
寒い夜に月にかかる笠を横切って行くように、
それは彼の青白い手足を駆け巡って、消えていった。

XIII
そして、他の存在もやってきた…「欲望」と「賞賛」、
翼を持つ「説得」とベールに包まれた「運命」、
「輝き」、「憂い」、かすかな希望と恐怖の「化身」、
そして黄昏の「ファンタジー」/
そして、「ため息」という家族を連れた「悲しみ」、
「喜び」は涙で目が見えなくなって、
代わりに自身の消えゆく微笑の光に導かれて、
ゆっくりとした足取りで華麗な行列に加わった/進んで行く華麗な行列は
秋の小川の霧のページェントのように見えたことだろう。

XIV
形、色合い、匂い、甘美な音の中の
彼が愛し、思考を形作ったすべてのものは、
アドナイスを嘆き悲しんだ。「朝」は
彼女の東の望楼に上った、そして髪も結わず、
大地を飾るべき涙に濡れて、
昼間を明るくする大空の瞳を薄暗くした/
遠くで憂鬱な雷がうめいていた、
青白い海は不穏なまま横になってうたた寝した、そして野生の風は狼狽して、
すすり泣きながら飛び回った。

XV
失意の「エコー」は声なき山々の中にいる、
そして彼女の悲しみに、彼の思い出の歌を食べさせる、
そして、もう風や泉に、
あるいは、新緑の水しぶきの上に止まっている多情な鳥たち、
あるいは、牧夫の角笛、あるいは日暮れの鐘に応えることはないだろう/
彼女が木こりたちの唇より愛する、彼の唇を真似ることができなくなってから
彼女は彼らの唇に軽蔑されて、やつれて、
すべての音たちの影になってしまった、
すべての木こりたちの歌の間に聞こえるのは、陰気なつぶやきだけである。

XVI
悲しみは若い「春」を荒れ狂わせた、
そして彼女は輝くつぼみを
秋が枯葉を投げ捨てるように投げ捨てた/
誰のために彼女は陰鬱な年を目覚めさせなければならないのだろうか?
ポイボス(*アポロン)にとって、ヒヤシンスは、
ナルキッソス自身にとって、ナルキッソスは
どちらも、あなた、アドナイスほど愛しい存在ではなかった。
彼らは弱々しくなった若い頃の仲間たちの間に青ざめてしなびて立ち、
露はすべて涙に、香りは哀しみのため息に変わる。

XVII
あなたの魂の姉妹である寂しいナイチンゲールは、
そうまで哀しい音楽で、仲間を悼みはしない/
あなたのように天に登って、太陽の領域で、
朝にその力強い若さを養うことができる鷲は、
空っぽの巣の周りを舞って、
叫びながら、そうまで嘆いたりはしない、
アルビオン(*ブリテン島の古称)があなたのために慟哭するようには:
あなたの無垢な胸を貫き、地上の客人だった天使の魂に
傷を負わせた者の頭には、カインの呪いが灯る!

XVIII
ああ、悲しいかな!冬が来て、去っていく、
しかし、季節とともに悲しみが巡ってくる/
空気と小川が喜びの音色を新たにする/
アリ、ハチ、ツバメが再び現れる/
枯れた四季の棺に、新しい葉と花が飾られる/
多情な鳥たちは、今やあらゆる叢で番いになっている、
そして野原と田舎に苔のような巣をつくる/
そして緑色のトカゲ、金色の蛇が、
牢獄から解き放たれた炎のように、恍惚から目覚める。

XIX
初めに神が混沌に夜明けを告げられた
世界の大いなる朝からずっとそうだったように、
胎動する生命が、変化と動きを伴って、
木々、小川、野原、丘、海を通して、
大地の中心から噴出した/その流れに浸って、
天体たちはより柔らかな光を放ち/
地上のすべてのものたちは生命の聖なる渇きに喘ぎ/
自ら拡散し/愛の喜びに、
彼らの新しい力の美しさと楽しみを費やす。

XX
この魂に優しく触れられた癩病の死体は、
穏やかな息の花として、自らを吐き出す。
香りが輝きに変化するなら、それらは星々の化身のように、
死を照らし出し、
その下で目を覚まして慌てる蛆虫を嘲笑う/
私たちは死について何も知らない。知っているのはそれが
目にも留まらない閃きを残して、鞘に収まる剣だということだけではないだろうか?
―強烈な原子は一瞬の輝きを放って、
そして最も冷たい安息に包まれる。

XXI
悲しいかな!私たちの悲しみだけを残して、
まるで始めからなかったもののように、
私たちが愛した彼のすべては死に、そして、悲しみ自体も死んでしまう!悲しいかな!
私たちはどこから来たのか、私たちはなぜ存在するのか。
俳優なのか観客なのか?偉大なものと卑小なものは
生が借りなければならないものを貸し出す死において、大集合する。
空が青く、野原が緑である限り、
夕方は夜を告げ、夜は次の朝を促し、
月ごとに災いがあり、年ごとに悲しみがある。

XXII
彼が目覚めることはもうない、ああ、決して!
「目覚めよ」と「悲惨」は叫んだ。「子を失くした『母』よ、
眠りから覚めよ、そして心の芯に負った、
彼のそれよりも深い傷を、涙とため息で癒せ。」
そしてウラニアの瞳を見つめていたすべての「夢」たち、
そして、その姉妹の歌を控えて神聖な沈黙を守っていた
すべての「エコー」たちは叫んだ:「起きて下さい!」
「思考」が「記憶」を蛇に噛まれたような素早さで、
彼女の神々しい休息から、薄れていた「輝き」が放たれた。

XXIII
彼女は東の空から立ち昇る秋の「夜」のように立ち上がった、
そして亡霊が棺を捨ててもなお、
「地上」に死体を置き去りにした、
荒々しく、陰鬱な、
永遠の翼を持った黄金の「日」に、彼女はついて行く。
悲しみと恐れが、ウラニアを大いに打ち、駆り立て、我を忘れさせ/
彼女の周りの空気を嵐の霧のように悲しいものにした/
そして、アドナイスが横たわる悲しい場所に向かう
彼女に吹き荒れた。

XXIV
彼女は秘密の楽園を出て、
野営地と、石と鋼鉄と人の心で荒れた都市を走り抜けた、
人の心は、彼女のいかなる軽い足踏みも受け止めることはなく、
至る所でその目に見えない優しい足の裏を傷つけた:
そして棘のある舌たちと、それらより鋭い思考たちは、
その聖なる血が五月の若い涙のように、
その価値のない道を永遠の花で飾るという、
彼らが決して退けられない、
柔らかな「形」をとることになった。

XXV
死の部屋で「死」は一瞬、
その生きている「力」の存在に羞恥し、
赤面して消え去った。
そして、亡き愛し子の唇に再び息が戻り、
「生命」の青白い光がその肢体に閃光を放ったので、彼女は喜んだ。
「星のない夜に消えて行く静かな稲妻みたいに、
私を不安に、寂しく、悲しくさせないで!」とウラニアは叫んだ:
彼女の悲嘆は「死」を起き上がらせた:「死」は立ち上がって、
微笑み、彼女の空しい抱擁を見た。

XXVI
「まだもうしばらく行かないで!もう一度話して/
キスして、キスだけでも、ずっと長く生き続けられるように/
そして、私の心のない胸と燃えるような脳の中で
その言葉、そのキス、そしてその他のすべての想いは、
残された悲しすぎる思い出を糧にして生き続ける、
今、あなたは死んだ。
まるで死があなたの一部だったかのように、
私のアドナイス!今のあなたようになれるなら、私の全てを捧げたい!
でも、私は時間に鎖でつながれていて、そこから離れられない!

XXVII
「優しかった子よ、美しかった子よ、
なぜ、あなたは踏みならされた道をあまりに早く離れ、
そして、心は強かったとはいえ、弱い腕で
巣穴の中の、解き放たれたドラゴンに敢然と立ち向かったのか?
あなたは無防備だった。
ああ、その時、知恵の鏡の盾は、軽蔑の槍はどこにあったのか?
あるいは、あなたの魂がその三日月を満月にする
完全な周期を待っていれば、生きている価値もない怪物たちは
鹿のように逃げ去っていたのだろうか? 

XXVIII
「群れをなす狼どもは、うるさくつきまとうことだけに大胆である/
品位のないカラスどもが、死者の上で騒いでいる/
『荒廃』が最初に餌食にした場所で食事をし、
その翼から流行り病の雨を降らせる、
征服者の旗に忠実なハゲタカども、
時代の『神託』がアポロンのように、黄金の弓で
一本の矢を放ったなら、彼らがどのように逃げ去って、微笑むことだろう!
仇をなす者たちが二本目を放たれることはない、
うずくまる彼らを蹴り飛ばす、誇り高い足に、彼らは媚びへつらう。

XXIX
「太陽が昇る、そして多くの地を這うものたちが卵を産む/
それが沈むと、儚い虫けらは夜明けのない死の中に集められる、
そして死ぬことのない星たちが再び目覚める/
生きている人間たちの世界も同じである:
神のような心が舞い上がって、
その歓喜のうちに大地をむき出しにして、天を覆い隠す、
そしてそれが沈むとき、
その光を曇らせたり共有したりした大群は、
魂にとって恐ろしい夜を、同輩の灯だけで過ごすことになる。」

XXX
そして彼女は口をつぐんだ:そして山の羊飼いたちがやって来た、
彼らの花冠は汚れ、魔法のマントは裂けていた/
その生きた頭の上に輝く、
神のような後光を歪ませた、
最初の、しかし不朽の記念碑である、永遠の巡礼者(*ジョージ・ゴードン・バイロン)が
自らの歌のすべての光を覆い隠しながらやってきた/
イエルネ(*アイルランドの女神)は彼女の最も悲しい過ちを
最も甘く歌う詩人(*トーマス・ムーア)を荒野から送ってきた、
そして「愛」は「悲しみ」に、彼の舌から音楽のようにこぼれ落ちるよう教えた。

XXXI
あまり注目されない人々に交じって、
幻のような、弱々しい「姿(*シェリー本人と思われる)」がやって来た/
雷鳴を弔いの鐘として去って行く嵐の、最後の雲のように、
仲間を失って/彼は(*アルテミスの水浴を見て鹿に変えられた)アクタイオンさながらに
「自然」の裸の愛らしさを見つめていたのだろう、
そして今、彼は世界の荒野を、弱々しい足取りで逃げ惑った、
そして彼自身の想いたちは、猛り狂う猟犬のように、
それらの父と獲物を求めて、
その険しい道を行った。

XXXII
ヒョウのように優しく素早い「魂」―
悲しみの中に隠された「愛」―
弱さを帯びた「力」―それには
積み重なった時の重みを持ち上げることなど、到底できない/
それは消えゆくランプ、降り注ぐ驟雨、
砕け散る大波/今こうしている間にも
その音が聞こえるのではないだろうか?致命的な太陽が
萎れつつある花の上で明るく微笑んでいる:たとえ心が折れようとも、
命は頬の上で血を燃やすことができる。

XXXIII
彼の頭には盛りを過ぎたパンジー、
白、まだら、青の色あせたスミレが飾られていた/
そして、その粗末な柄の周りに暗いツタの房が茂っていて、
森の昼間の露を滴り落としている、
穂先にイトスギの球果がついた軽い槍は
それを掴んでいる弱い腕が
鼓動を続ける心臓のように、震えるにつれて揺れていた/会衆の中で
彼は最後に来たが、誰にも相手にされず、離れて立っていた/
群れに捨てられて、猟師の矢に射られる鹿のように。

XXXIV
全員がよそよそしかったが、ときに彼のうめき声に
涙を流しながら微笑むこともあった/
彼が見知らぬ土地の訛で、新たな悲しみを歌ったとき
優しい人々には彼の運命が良く分かったのである/
悲しむウラニアは、
「よそ者」の振る舞いを目に留めて、つぶやいた。「あなたは何者ですか?」
彼は答えなかった、しかし突然手を使って
焼き印を押された、血塗られた額を剥き出しにした、
カインかキリストのような―ああ!そうに違いない!

XXXV
どの柔らかな声が、死者の前で沈黙を守っているのだろう?
どの額の上に、その黒いマントが投げかけられているのだろう?
どのような姿が、記念の石を嘲りながら、
うめき声も上げない重い心で、
白い死の床に悲しく寄り掛かっているのだろう?
もし賢者たちの中で最も優しい「彼」が、
故人を教え、なだめ、愛し、称えたのなら、
受け入れられたその心の犠牲である沈黙に
不調和なため息をついて、私を苛立たせないで欲しい。
(*これはシェリーとキーツの共通の友人、リー・ハントについての言及と解説されている)

XXXVI
私たちのアドナイスは毒を飲んでしまった―ああ!
いかなる耳の聞こえない毒蛇のごとき殺人者が、
このような悲惨の樽から、始まったばかりの人生に飲ませるための杯を掲げるのだろうか?
名もなき蛆虫は、今や自らの関与を否認するだろう:
それは自ら妬み、憎しみ、悪意を抱いたその前奏曲の中に
魔法の音色を感じながらも、それから逃れることができた、
しかし、それが片肺だけで吠えて
静かに期待していたのは、
その主人の手が冷たく、その銀の竪琴に弦が張られていない歌だった。

XXXVII
お前は生きよ、お前の悪名は名声ではない!
生きよ!私からのこれ以上の重い懲罰を恐れるな、
記憶に残る名前についた、つまらない染みよ!
しかし、お前自身であれ、そしてお前自身がそうであることを知れ!
そしていつでもお前の季節に、お前は自由に
牙を剥いたときに、毒をこぼせばよい/
「良心の呵責」と「自己嫌悪」がお前にまとわりつくだろう/
熱い「恥辱」がお前の隠された額に燃え上がって、
お前は殴られた犬のように震えるだろう―今のように。

XXXVIII
また私たちの喜びが、下界で叫び声を上げて腐肉を漁る、このトンビどもから
遠くに逃れ去ったことを泣くのは止めよう/
彼は永遠の死者とともに寝起きする/
彼が今座っている場所まで、お前が舞い上がることはできない。
塵は塵に!しかし純粋な魂は、
それが流れ出した、燃える泉に流れ戻るだろう、
永遠の一部分は消えることなく、
時間と変化を経て、同じように輝き続けるに違いない、
一方、お前の冷たい残り火は恥辱の汚い炉床で息絶えるだろう。

XXXIX
静かに、静かに!彼は死んでいない、彼は眠っていない、
彼は人生という夢から覚めたのだ/
嵐のような幻想に耽って、
幻と不毛な争いを続け、
狂気の昏睡の中で、魂のナイフによって
不死身の無を打っているのは私たちなのだ。私たちは死体置き場の
死体のように朽ちていく/恐怖と悲しみは
私たちを身悶えさせ、日ごとに蝕む、
そして冷たい希望は、私たちの生きた肉体の中で蛆虫のように群をなす。

XL
彼は私たちの夜の影よりも高く飛翔した/
羨望と中傷と憎しみと痛み、
そして、人々が喜びと勘違いするあの不安は、
二度と彼に触れることも、彼を悩ませることもない/
彼には世界の汚濁のゆっくりした伝染の危険がなく、
今や心が冷たく、頭が灰色になるのを
空しく悲しむことは決してない/
また、魂自身が燃え尽きたとき、
火花を放たない灰が、嘆かれない骨壷に収められることもない。

XLI
彼は生き、彼は目覚める―死んだのは「死」であって、彼ではない/
アドナイスのために嘆くな。若き「夜明け」よ、
お前の露をすべて輝きに変えよ。
お前が嘆き悲しんでいる魂は、お前から去っていない/
洞窟よ、森よ、うめくのを止めよ!
止めよ、淡い花と泉よ、そして「空気」よ、
お前が見捨てられた「大地」の上に投げたスカーフは
まるで喪のベールのようだった、今、その絶望の上に
微笑む歓喜の星の高さまでも、大地をむき出しにしよう!

XLII
彼は「自然」と一つである。
雷のうめき声から、夜中の鳥の甘いさえずりまで、
その音楽のすべての中に、彼の声は聞こえる/
彼は闇の中でも光の中でも、ハーブや石からでも感じられ、
知られる存在であって、
彼の存在をそれ自体に引き戻した自然の力が行くところであれば、
どこにでも広がって行く/
それは決して倦むことのない愛で世界を支配し、
それを下から支え、その上で輝く。

XLIII
彼は、かつて彼がさらに愛らしくした
愛らしさの一部になった:彼は彼の役割を担っている、
一方、一つの「魂」の可塑的な圧力が
鈍く密集した世界を駆け抜ける、
それは、そこで全ての新たな後継者たちに、それらがとる形を強い、
それぞれの集団がそのことに耐えられるようにするため、
その似姿への移行を阻もうとする、望まれない不純物を責め苛む/
そして、その美しさとその力は
木々や獣や人間から爆発して、神の光になる。

XLIV
時の大空の光彩は
覆い隠されたとしても、消えることがない。
星が定められた高さまで昇るように、それは昇る、
そして死は低い霧であって、それは輝きを覆い隠せたとしても
汚すことはできない。気高い思想が
若い心を死すべき肉体から引き上げるとき、
そして、その中で愛と命が
その地上の運命をどうするかを争っているとき、死者は高みに住んでいる、
そして暗い嵐の空の上で、光の風のように動く。

XLV
遥かなる「未知の世界」で、獲得されなかった名声の継承者たちが、
死すべき者たちの想いを超えて据えられた玉座から立ち上がった、
青白いチャタートン(*トーマス、1752―1770)が立ち上がった、
その重々しい苦しみは、まだ彼から去っていなかった/
この上なく温和で、汚れない「魂」で
戦い、倒れ、生き、愛した
シドニー(*フィリップ、1554―1586)が立ち上がった/
そして、その死によって認められたルカヌス(*マルクス・アンナエウス、39―65)が:
彼らが立ち上がると「忘却」は叱られたように縮み上がった。

XLVI
そして、その名は「地」の上で知られていないが、
彼らから流れ出たものは、その親である火花より長生きする火のように消えることがない、
大勢の人々が
まばゆいばかりの不死を纏って立ち上がった。
「私たちの一員になってくれ、」と彼らは叫ぶ、
「あの王を持たない天球が、主権を持たず盲目的に、
『歌の天国』の中でそこだけ音もなく、
長きに渡って揺れ動いていたのは、あなたゆえのことだった。
あなたの翼ある玉座に就いてくれ、あなたは私たちの群れの「宵の明星」だ!」

XLVII
誰がアドナイスを嘆いているのか?ああ、出て来い、
愛すべき哀れな者よ!あなた自身と彼を正しく知れ。
あなたの喘ぐ魂で、ゆるく垂れ下がった「大地」を掴め/
その中心から、あなたの魂の光を
その広大な力が周りの虚無を埋め尽くすまで、あらゆる世界中に投げかけよ:
それから、私たちの昼と夜の点にまで縮小せよ/
希望が希望を燃え立たせ、
あなたを崖っぷちに誘った時に
それがあなたを跳び降りさせないよう、あなたの心を軽く保て。

XLVIII
あるいは、墓所であるローマに行け、
ああ、彼のためではなく、私たちの喜びのために:
そこにある時代、帝国、宗教が、
彼らが引き起こした破壊の中に
埋もれていることに意味はない/
なぜなら彼は栄光を貸し出すことができるが―彼らは世界をその餌食にした者たちから
栄光を借りることができないからである/
そして彼は、それぞれの時代の退廃と闘った思想の王たちの元に招かれた、
そして、過去のすべては、過ぎ去ることができない。

XLIX
あなたはローマへ行け―「楽園」、
墓、都市、そして荒野へ/
そして砕けた山々のような残骸がそびえ立つ場所、
「荒廃」の剥き出しの骨が
花咲く雑草と香り豊かな叢を纏う場所へと、
その場所の魂はあなたの足を
緑の坂道に導く、
そこでは死者の上に
草の中で幼子のように笑う、花たちの光が広がっている/


そして灰色の壁たちは丸く崩れ、その上を、
灰色の燃え木を伝うゆっくりした炎のような、鈍い時間が流れていく/
そして荘厳な頂きを持つ
鋭い(*ケスティウスの)ピラミッドは、
自らの思い出のための隠れ家を計画した人物の遺体を収め、
大理石に姿を変えた炎のように、そこに立っている/そしてその足下には
野原が広がっていて、その上で新しい一団が
神の微笑みの中で死の野営地を設け、
乏しい息が絶えたがゆえに私たちが失った彼を歓迎する。

LI
ここで、少し立ち止まろう:これらの墓は
それぞれに背負わされた責任を乗り越えるには、まだ若すぎる、
そして、ここで嘆く心の泉の一つが封印されているなら、
それを解いてはいけない!
家に帰れば、あなた自身の井戸が
涙と胆汁で満たされているのはあまりにも確かなことである。
世界の冷たい風からの逃げ場を、
墓の影に求めよ。
アドナイスはどうなったのか、私たちはなぜそうなることを恐れるのか?

LII
「一つ」のものは残り、多くのものは変化して、消えてゆく/
「天」の光は永遠に輝き、「地」の影は飛び過ぎる。
「生」は、色とりどりのガラスのドームのように、
「死」がそれを粉々に踏みにじるまで
「永遠」の白い輝きに、色を落とす。
―死ぬがよい、あなたが探し求めるものと一緒になりたいならば!
すべてが逃げ去った場所について行け!
―それらがふさわしい真実を注ぎ込んだ栄光を語るには
ローマの紺碧の空、花、遺跡、彫像、音楽、言葉は弱い。

LIII
なぜぐずぐずしているのか、なぜ引き返すのか、なぜ縮み上がるのか、私の心よ?
お前の希望は既に消えた:
ここにあるすべてのものからそれらは去った/
今すぐに出発しなければならない!
巡る年ごとに、男から、女から光は消え去る/そして愛しいものは、
挫くためにお前を惹きつけ、弱らせるためにお前を撥ねつける。
柔らかな空が微笑み、優しい風が耳元でささやく:
呼んでいるのはアドナイスだ!ああ、そこへ急ごう、
「死」が結びつけられるものを、「生」にこれ以上切り離させるな。

LIV
その微笑みが「宇宙」を燃え上がらせるあの「光」、
その中で万物が働き、動くあの「美」、
出生の「呪い」が影を落としても消し止めることができないあの「祝福」、
人間と獣と大地と空と海とが盲目的に織り成す
存在の網を通じて、明滅しながら燃えている、
あの力強い「愛」が
全てをお互いに渇望し合う炎の鏡になって/
冷たい死の定めの最後の雲を燃やし尽くし、
今、私を照らしている。

LV
私が歌の中でその力を呼び起こした息が
私に降りて来る/岸から遠くへ、
嵐に決して帆を上げなかった、恐れ慄く群衆から遠くへと、
私の魂の帆船は乗り出す/
重い大地と何層もの天球が引き裂かれる!
私は遠くへと、暗く、恐ろしい旅をする/
そのとき、アドナイスの燃える魂の光は、「永遠」の住処から、
天国の最も奥のベールを突き抜けて、
星のように道を教えてくれる。

 

 

 

2023.12.8