五月の女王



The May Queen

by

Alfred Tennyson


五月の女王

アルフレッド・テニスン

 

 

原文:
https://www.telelib.com/authors/T/TennysonAlfred/verse/ladyshalott/mayqueen.html

過去の翻訳:
テニスン小曲集 (泰西小曲選集) 幡谷正雄 訳 交蘭社, 大正14
https://dl.ndl.go.jp/pid/977732/1/90

縦書き

 

早く起こして、早く声をかけて、早く声をかけてね、愛する母さん/
明日は、どんな嬉しい新年よりも幸せな一日になるわ/
どんな嬉しい新年よりもよ、母さん、一番気が狂いそうな、一番楽しい一日になるわ/
だって私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

みんなが言うの、黒い、黒い目の娘はたくさんいるけれど、私の目が一番輝いてるって/
マーガレットやメアリー、ケイトやキャロラインもいる/
でも、小さなアリスほどきれいな娘は国中さがしてもいないって、
だから私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

一晩中ぐっすり眠るわ、母さん、私絶対起きないわよ、
だから夜が明け始めたら、大きな声で私を呼んでね/
だって、私きれいな花とつぼみの束と、花の冠を作らなきゃいけないの、
だって私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

谷を登ってきたとき、誰に会ったと思う?
ロビンがハシバミの木の下の橋に寄っかかっていただけよ。
あいつね、母さん、昨日私が睨みつけてやったことを気にしていたわ、
でも私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

白い服を着てたから、母さん、私幽霊だと思われたのよ、
だから私、まるで稲妻みたいに、何も言わないであいつの横を走り抜けてやったの。
残酷な心の持ち主だって言われるけど、私そんなこと気にしない、
だって私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

みんなはあいつが愛のために死んでしまうと言っているけど、絶対にそんなことないわ/
あいつの心は壊れてしまいそうらしいけど、母さん―それ私のせいかしら?
夏の日には大胆に口説いて来る若い人はいくらでもいるわ/
そして私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

小さなエフィは明日、私と緑地に行くの、
そして母さんもそこにいて、私が女王をつとめるのを見るの/
若い羊飼いたちがあちこちから、遠くからやってくるわ、
そして私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

ポーチの周りにはスイカズラが波打つような木陰を作ってるわ、
そして牧草地の小さな谷の横には、かすかに甘く香るタネツケバナが揺れてる/
そして野生の沼マリーゴールドが、灰色の沼地や窪地で炎のように輝いてるわ、
そして私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

夜風が行ったり来たりしてるわ、母さん、牧草地の上を、
そして、その上の幸せな星たちは、風が通り過ぎるたびに輝いてるみたい/
明日は一日中、一滴の雨も降らないわ、
そして私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

谷中が、母さん、爽やかで緑で静かになるわ、
そして、エンコンソウとキンポウゲが丘一面に咲いてるの、
そして、花でいっぱいの谷間の小川が、楽しそうにきらきらと輝くわ、
だって私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

早く起こして、早く声をかけて、早く声をかけてね、愛する母さん/
明日は、どんな嬉しい新年よりも幸せな一日になるわ/
どんな嬉しい新年よりもよ、母さん、一番気が狂いそうな、一番楽しい一日になるわ/
だって私五月の女王になるの、母さん、私五月の女王になるのよ。

 

ニューイヤーズ・イブ

起きたら早く声をかけてね、声をかけてね、愛する母さん、
嬉しい新年の太陽が昇るところを見たいの。
私の最後の新年になるんだから、
そして私はお墓に入って、もう誰も私のことを考えなくなるの。

今日、私太陽が沈むのを見たの。
楽しかった年、楽しかった時、そして私の心の安らぎを残して沈んで行ったわ/
そして母さん、もうすぐ新しい年が来る。
でも私はもうサンザシの花を見ることも、新緑を見ることもないの。

五月には一緒に花の冠を作って/一緒に楽しい一日を過ごしたわね/
緑地のサンザシの下で、私五月の女王になったの/
そして、みんなでメイポールの周りやハシバミの茂みで踊ったわね、
背の高い白い煙突の笠の上に北斗七星が出るまで。

丘のどこにも花はなくて/窓ガラスには霜が降りているわ。
マツユキソウがまた咲くまで生きていたいだけなの/
雪が溶けて、太陽が高いところに顔を出してくれないかしら/
死ぬまでに一輪の花を見たい。

楡の木が風に揺れて、巣を作っていたカラスがカーカー鳴くでしょう、
そして使われていない牧草地で、チドリの群れがピーピー鳴くでしょう、
そして夏になると、ツバメはまた波打つ草原の上に戻ってくるでしょう、
でも私は一人で、母さん、朽ちていくお墓の中に寝ているの。

聖堂の窓に、そして私のお墓の上に、
早い早い朝に、夏の太陽が輝いて、
丘の上の農場の赤い雄鶏がまだ鳴く前には、
母さんは暖かくて、眠くて、世界中が静かなの。

暮れていく空の下に、母さん、また花が咲く頃、
夜になっても長い灰色の畑にいる私を、母さんが見ることはもうないわね/
乾いた黒い丘から、夏の涼しい空気が
エンバクやスゲ、淵のガマに吹き下ろす頃。

サンザシの木の陰に、母さん、私を埋めてね、
そして時々来てね、私が眠っているところに会いに来てね。
忘れたりしないわ、母さん、母さんの足音を聞いてるわ、
長くて気持ちいい草の中を、私の頭の上を歩く足音を。

お転婆でわがままだったけど、もう許してくれるよね/
キスして、私の母さん、そして行く前に私を許してね/
だめ、だめ、泣いちゃだめ、悲しみを荒立てちゃだめ/
私のことでくよくよしないで、母さん、子供はもう一人いるじゃない。

できることなら、また来るわ、母さん、私のお墓から/
私のことは見えないでしょうけど、私母さんの顔を見ているわ/
一言も話せないけど、母さんの言葉を聞いているわ、
そして母さんが私は遠くに行ってしまったと思う時、いつも、いつもそばにいるわ。

私が永遠のおやすみなさいをしたときには、おやすみなさい、おやすみなさい、
そして、私が家の外に運び出されるのを母さんは見るの、
私のお墓が緑に覆われるまで、エフィには会いに来させないで。
あの子は母さんにとって、いままでの私より良い子になるわ。

あの子は穀物倉の床で私の庭道具を見つけるでしょう。
あの子にあげるわ、あの子のものよ/私はもう庭仕事をしないんだもの/
でも私がいなくなったら、私が居間の窓の外に植えたバラの木と
箱に植えたモクセイソウの世話をしてくれるように言ってね。

おやすみなさい、素敵な母さん/日が昇る前に声をかけてね。
横になったまま一晩中起きてるつもりだけど、朝には眠くなっちゃうわ/
でも、私嬉しい新年の日の出を見たいの、
だから、目が覚めたら声をかけてね、早く声をかけてね、愛する母さん。

 

結び

もっと早いかと思ってた、でも私はまだ生きてる/
野原では、そこら中で子羊が鳴いているのが聞こえる。
新年の朝がどんなに悲しかったか、私は覚えてる!
マツユキソウが咲く前に死ぬと思ってたけど、今、スミレが咲いている。

ああ、空の下に咲き始める新しいスミレはすてき、
そして若い子羊の声の方が、立ち上がれない私にはすてき、
そして大地のすべてと、咲き乱れる花々はみんなすてき、
そして死は、行くのが待ち遠しい私にとって、生よりもはるかにすてき。

最初はとても辛かった、母さん、幸せな太陽の下から出て行くのは。
でも今、そこに居続けるのは難しいみたい、でも神様の御心なの!
でも、私が解放される日はそう遠くないと思うわ/
そう、あの善い方、牧師さまのお言葉で心が落ち着いたの。

ああ、あの優しい声と銀色の髪に祝福あれ!
そして、私に出会うまでのあの方のすべての人生に祝福あれ!
ああ、あの優しい心と銀の頭に祝福あれ!
ベッドの横にひざまづいて下さるあの方を、私何度も何度も祝福したの。

あの方は私にすべての罪を教えて下さることで、すべての慈悲を教えて下さったの。
今、私のランプは遅れて灯されたけれど、神様は中に入れて下さるの/
だから、私もう元気になんかならないわ、母さん、もしもう一度そうなれたとしても、
だって私の望みは、私のために死んでくださった方のもとに行くことだけなんだから。

犬の遠吠えも、母さん、シバンムシの声も聞かなかったわ、
夜と朝が出会うころ、もっとすてきなしるしがやってきたの/
ベッドの横に座って、母さん、私の手を握って、
反対側にはエフィが座ってね、私その話をするわ。

荒れた天気の三月の朝、私天使たちが呼ぶ声を聞いたの/
月が沈んで、暗闇がすべてを覆っていたときだったわ/
木々がささやき始めて、風が巻き始めた、
そして荒れた天気の三月の朝、私の魂を呼ぶ声を聞いたの。

横になってたけど目はすっかり覚めていて、私母さんと愛するエフィのことを考えてたの/
もう私がいない家にいる母さんのことを思ったの/
私全身全霊をあげて二人のために祈ったわ、そして神様にお任せすることにしたの、
そのとき、音楽のうねりが風に乗って、谷を駆け上って来るのが聞こえたの。

空耳だと思ったわ、ベッドの中で聞いたんだから、
そしてそのとき、私何かを言われたの―何を言われたのかはわからない/
大きな喜びと震えで胸が一杯になったわ、
そして谷を上って、もう一度風に乗った音楽が聞こえてきたの。

でも母さんは寝てた/そして思ったわ「私にしか聞こえないんだ」って。
そして、それが三回来たなら、しるしだと思ったの。
そしてそれはまた、窓枠のすぐそばまでやってきて、
そして、そのまま空まで上って行って、星の間に消えて行ったの。

そう、その時が近づいていると思うの、そう信じてる
私の魂が行かなきゃいけない道には楽しい音楽が流れているの。
私なら、本当に、今日行ってもいいの/
でもエフィ、私がいなくなったら母さんを元気づけてあげてね。

そして、ロビンには優しい言葉をかけてあげて、くよくよしないでって言ってあげて/
私よりもあなたを幸せにできる人はたくさんいるわって。
もし私が生きていたら―言えないけど―あいつの奥さんになってたかもしれない/
だけど、それももう終わってしまったこと、私の人生の夢と一緒に。

ああ、見て!太陽が昇り始めて、空が輝いてる/
百の野原が照らされてるの、その全てを私は知ってる。
そして、そこで私が動き回ることはもうないの、そしてそこには太陽の光が輝くでしょう―
谷間に咲く野の花を摘むのは、私じゃない誰かの手なの。

ああ、すてきで不思議なことみたい、今日という日が終わる前に
今話している声は、太陽の彼方に行ってしまうのかしら―
いつまでも、いつまでも、正しい魂たちと真実と一緒―
だけど、人生って何なの、どうして嘆き悲しむの?どうしてこんなに苦労が多いのかしら?

いつまでも、いつまでも、ずっと楽しい天国にいて―
そして、そこで少しの間、母さんとエフィが来るのを待ってるの―
母さんの胸に抱かれるように、神様の光の中に抱かれてるの―
そこでは、悪い人は苦しまなくなって、疲れた人は休ませてもらえるの。

 

 

2023.10.14