内閣のジン法案への反対(1743)
チェスターフィールド伯爵フィリップ・ドーマー・スタンホープ(1694-1773)
1694年生まれ、1773年死去。外交官などを経て、1744年から1746年までアイルランドの総督を務めた。死後(1774年)に出版された「息子への手紙」は出版のために書かれたものではない。
訳者より:「息子への手紙」で知られるチェスターフィールド卿の演説です。貴族院の演説の一例として取り上げます。
原文:https://www.bartleby.com/268/3/18.html
現在審議中の法案(注1)は庶民院を最大限に急いで、ほとんど討論の形式をとることもなく通過したようですが、それよりもはるかに綿密な検討を要するものであると私には思われます。また、一部の議員諸君がここでこの法案を推し進めようとしている際の(*不)熱心さが、この法案から予想される結果の重要性と一致しているとは思えません。・・・・・1
議員諸君、この法案が委員会で審議されることを望む(*参考:読会制)ということは、この法案が反対を受けずに一歩前進すること;貴族院の形式を密かに通過すること;そして政府の緊急性が高まって、他の方法で国費を調達する時間が取れなくなるまでこの法案の審議が遅延することを望むことに他なりません。(*演者は廃案を主張している)・・・・・2
この素晴らしい法案の支持者たちは粗悪な策略によって、その意図を明快かつオープンにすることを妨げようとしています。諸君、彼らはこの法案がより広く飲用されることを意図している酒類と同じように作用すること;蒸留酒を飲む人が自分が飲んでいることに気づかないうちに酔っぱらってしまうように、我々がそれを作ったことに気づかないうちにこの法律の効力を見ることを望んでいるのです。彼らの意図は味見をする前に飲み込まなければならず、一度飲み込んだら頭がおかしくなってしまうような一口の政策を私たちに与えることなのです。・・・・3
議員諸君、本法案の目的は蒸留酒の使用を防止または減少させることである、とするのは常識を踏みにじり、品位と理性の法を犯すことです。販売を認可することで商品の販売が禁止されるとか、提供することと拒否することが同じ行為であるとか、そんな話をいつ誰が聞いたことがあるでしょうか。・・・・・4
確かに、提案されている税によって蒸留酒はより高価になり、価格の上昇によって購入者の数が減少すると主張されていますが、同時にこの税が大陸での戦争の費用を賄うことが期待されているのです。つまり蒸留酒の消費が妨げられ、非常に小さな税から軍隊の支援、オーストリア家の再興、(注2)フランスの試みの抑制に十分な収入が得られることが期待できると主張されているのです。・・・・・5
確かに 議員諸君、これらの期待は矛盾していると言わざるを得ません;同じ口から出てきたことですが、同じ頭で考えられているとは思えません。しかしその主張の中に一つでも妥当性や真実性が認められるならば、政治家はそれなりの評価を受けるべきでしょう。そして、この点において現在の閣僚を賞賛しないわけにはいきません。というのも、この税によって蒸留酒の消費が減るというのは間違いなく嘘ですが、非常に大きな税収―不可避的に人々の放蕩を引き起こす税収―が得られるというのは確かに真実だからです 。・・・・・ 6
したがって我々の大臣は我々の債務の支払いのためではなく―圧迫されている我々の心を励まし、支払いの望みを失っている債務をすぐに支えるという―より価値のある目的のために新たな資金を生み出したという点で;彼らの前任者と同じ名誉を持つことになるでしょう。議員諸君、彼らはどんな努力をしても賢くなれない国家が、彼らがそのトップにいる間は少なくとも非常に陽気でなければならないと決意し;そして国民の幸福が政府の目的であることから、彼らはすべての人が心配事を眠らせ、悲しみを紛らわし、公衆の不幸と自分自身の不幸の両方を酩酊の楽しみの中に消し去るという手段によって、彼らが拍手喝采を受けることになると考えているようです。・・・・・7
贅沢は議員諸君、課税されるべきですが、悪徳は禁止されるべきであります。十戒の違反に税を課すことがありうるでしょうか?このような税は邪悪でスキャンダラスなものではないでしょうか;なぜならば税を支払うすべての人々に放縦を許すからです。これはプロテスタントがローマ教会に投げかけた最も正当な非難(*免罪符の販売)ではないでしょうか。これが宗教改革の最大の原因ではなかったのでしょうか?そして、それを導入した者に非難と破滅をもたらした前例に従うのですか?今、皆さんの目の前にあるのは、まさにこのケースです。皆さんは税を課し、その結果ほとんど必然的に十戒のすべてに違反することになる一種の酩酊に溺れさせようとしているのです。主教法廷がこれに賛成することを期待できるでしょうか?私は賛成されないと確信しています;だからこそ、私はこの機会に十分に調べようとしたのです。他の機会に宗教があまり深い関心を持たなかったときよりも十分に調べたと確信しています。・・・・・ 8
実際のところ議員諸君、現在の大臣諸氏のような限りない慈悲の心を持った人々は、これまでになかったような名誉に値すると思います;街中のすべての看板で樽に跨ったり、自分が世話した許可証によってこの酒が売られる場所で自分の姿が目印になることにふさわしいのです。彼らは少なくとも、増税のためのあらゆる手段が講じられた後に、公共の富の最後の遺物を飲み干す新しい方法を発見し、政府に新たな税収を追加した「幸福な政治家」として後世に記憶されることになることでしょう。また今後、私たちの間で現在設けられているいくつかの財源を列挙する人々は国の恩人の中に飲料財源の輝かしい創設者がいることを忘れることはないでしょう。・・・・・9
私は、議員諸君、私の同胞である国民と私の同輩の臣民に今近づいている幸福な時代、誰もが酔っぱらう特権を失うことなく;すべての不満や不忠が忘れられ;現在、内閣が敵と見なしている国民がすべての拘束を取り除いた政府の慈悲深さを認識することになる時代を祝福することが許されるでしょうか。・・・・・10
しかし、このような望ましい目的のための法案には議員諸君、前文を付け加えることが適切でありましょう。そこにおいては国民が我々の寛大さを残酷さと勘違いしたり、自分たちの恩人を迫害者と考えたりしないよう、我々の意図の親切さをより完全に説明する必要があります。したがって、この法案が委員会で審議され修正される場合(それ以外あり得るでしょうか?)、私はこのような形で法案を提出することを謹んで提案いたします。
現在の内閣の計画は、それがどのようなものであったとしても、多数の傭兵なしでは実行できず;その傭兵は金なしでは雇えない;しかし今後、国王陛下によっていかなる者も以下の条件において酔っぱらう権利を否定されないことが規定されるならば、この国民の現在の飲酒傾向を見る限り、彼らは蒸留酒を楽しむことを邪魔されないために政府が他にいかなる譲歩をする場合にも増して喜んで税を支払うことであろうと我々は信じる。・・・・・11
陛下は確かにこの法案には十分な強制力を持たないかもしれないことを認めておられますが、それが来年には改善され強化されるかもしれないという期待を私たちに持たせ、徐々に飲酒癖を改善するよう努力すること、そして何よりも、今は製造を妨げないように注意することを私たちに説いておられます。・・・・・12
私には議員諸君、今年に限って殺人を容認する特別な理由があるとはとても思えません;またそれが今後破壊されるべきであるというのであれば、今は生産を正当化すべきであるという理由もありません。私たちは十分に注意を払いつつこの価値ある製造業をさらに進めることができるどうかを、この法律がどこまで機能するかということによって試みようとしているのです。・・・・・13
この法律の作用に関しては国民を矯正することなく政府を富ませるだけであると、私は思いますが;これに異論がある方はあまりいないでしょう。この法律によって蒸留酒の販売が減少することが予想される場合、その減少が国民の矯正のために望ましいものであるかどうかを考慮しなければなりません。それが十分であれば(*蒸留酒の)製造は終焉し、より高い税に反対するすべての理由はその反対意見と釣り合います;しかし、それが十分でなかったなら我々は少なくとも義務の一部を怠り、人々の健康と美徳をないがしろにしたことになります。・・・・・14
この法案の傾向を考えてみると議員諸君、病気の蔓延、勤勉の抑制、人間の破壊だけを意図していることに気づきます。それは殺されない者には障害を負わせ、手足がある者からは感覚を奪うという;これまで国民に向けられた最も致命的な力であると思います。・・・・・15
したがってこの法案は、人類の数を減らし、その多数の住人という重荷から世界を解放することだけを目的としているように見えます;そしておそらく、新任の大臣たちがこれまでに示した中で最も強力な政治的賢明さの証拠です。議員諸君、彼らは自分たちがあまねく嫌われていること、そしてイギリス人が死ぬたびに自分たちは敵から解放されるということをよく知っています。それゆえ、彼らは国民にジンの水門を開いたのです。・・・・・16
過去の内閣は議員諸君、自分の国に戦争を仕掛ける術についてそれほどの知識を持っていませんでしたが、敵が騒々しく大胆であるのを発見すると起訴したり罰したりして畏怖させ、彼らを泥棒のように牢獄や絞首台で殺していました。しかし議員諸君、どの時代にも何らかの改善がなされています;どの国も、いかに退廃的であろうとも、ある幸福な時期には偉大で進取の非凡な才に富む人々が登場します。我々は政治における新しい発見を目撃するという幸運に恵まれています。国家には死刑執行人と絞首索は不要であることを示し、大臣は敵の自滅を煽ることで敵を殺したという非難を免れることができる、ということを示した人々と同時代にいるのは我々にとって喜ばしいことかもしれません。・・・・・ 17
この目的のために議員諸君、毒物―舌を楽しませるように作られており、能力を弱め、酩酊することによってしか死ぬことがない毒物―を販売する一定数の店を設立すること以上に効果的な発明があったでしょうか?内閣の敵が騒々しく乱暴になってきた最初の瞬間から、悪賢い雇人が彼を内閣の屠殺場に連れて行き、その霊験あらたかな酒を彼が話すことも考えることもできなくなるまで飲ませることができるでしょう、そして議員諸君、話すことも考えることもできない人物というのは、考えずに話す人物を除いては我々の大臣にとってこれほど喜ばしいものはないのです。・・・・・18
(注1)1743年2月15日、貴族院での演説。要約。カータレット・ジン法案は、スピリチュアル・リカーの税を変更し、小売業者にライセンスを与えるものであった。ジョンソン(*サミュエル)博士はこの演説の内容を1743年11月のThe Gentleman’s Magazineに寄稿し、主に自分が構成したと主張している。ジョンソンはこのようにして約2年間、議会の演説をThe Gentleman’s Magazineに報告した。雇われた人物が彼のためにスピーチのメモを作り、それをもとに彼がスピーチを構成したとのこと。このスピーチの功績は誰のものであれ、当時の最高の英語の魅力的な見本である。
(注2)このスピーチの日付のわずか数ヶ月前に、フリードリヒ大王は条約によってマリア・テレジアからシレジアをついに奪い取った。