ロックスリー・ホール




Locksley Hall


by

Alfred Tennyson

 

ロックスリー・ホール

 

アルフレッド・テニスン

 

 

訳者より:
チャーチルのエッセイ集「わが思想・わが冒険」の中の「五十年後の世界」で言及されている詩です。Tower notesというサイトから購入した記事を参考に訳しました。

原文:
https://www.poetryfoundation.org/poems/45362/locksley-hall

縦書き



みんな、まだ朝が早いから、もう少し寝かせてくれ:
私はここにいる、用があるときはラッパで呼んでくれ。

ここがその場所だ、昔と同じだ、そこら中でダイシャクシギが鳴いている、
ロックスリー・ホールには湿地のわびしい光が差している/

ロックスリー・ホールから見下ろせるのは遠い砂地、
そして轟音とともに白く崩れる、中に空洞を抱いた大波。

夜な夜な、寝る前にあの蔦の絡まる窓から、
西にゆっくりと傾いていく大きなオリオン座を眺めたものだ。

夜な夜な、芳醇な木の陰を昇っていく昴を見た、
それはまるで蜘蛛の糸に絡まったホタルの群のように輝いていた。

この浜辺をさまよいながら私が過ごした、若い日々を崇高なものにしたのは
科学のおとぎ話と、地球の長い歴史の産物たちだった/(*19世紀前半は多くの科学的発見があった時代だった)

そのとき、私の背後の数世紀は、実り豊かな土地のように眠っていた/
その中に秘められた約束ゆえに、私はそのすべての贈り物にしがみついていたのだ:

人の目で見渡せる限りの未来を覗き込んだとき/
私は世界の幻を見た、そしてすべての来るべき驚異を見たのだ―

春になると、コマドリの胸はより深い紅に染まる/
春になると、浮気なノゲリには冠羽が生える/

春になると、光沢を持つ鳩の上には、さらに生き生きした虹が輝く/
春になると、若者の想いは軽く恋に傾く。

そして彼女の頬は青白い、そして若いのに薄い、
そして彼女の目は、私のすべての動作を黙ってじっと見つめていた。

そして私は言った「近しいエイミーよ、話してくれ、私に真実の気持ちを話してくれ、
信じてくれ、近しい人よ、私の存在のすべては君に向かって流れている。」

彼女の青白い頬と額に、色と光が宿った、
かつて見た、北国の夜のバラ色のオーロラのように。

そして彼女は振り返った―突然のため息の嵐に胸を震わせて―
ヘーゼル色の瞳の闇の中の魂のすべてを深く目覚めさせて―

言った「私は自分の気持ちを隠してきました、それが私の害になるかもしれないと思ったのです」/
言った「近しい方、私を愛して下さいますか」泣いた「私は長い間、あなたを愛していました。」

愛は時のグラスを手に取って、輝く手の中でそれを回した/
一瞬一瞬が軽やかに揺れ動き、黄金の砂の中を駆け抜けていく。

愛は生命の竪琴を手にして、すべての和音を力強く打ち鳴らした/
自我の和音を打ち鳴らすと、それは慄きながら、音楽の中に消えて行った。

湿原の朝、私たちは雑木林が鳴り響くのをよく聞いたものだ、
そして彼女のささやきは、私の胸を春で満たし、鼓動を速く強く打ち鳴らした。

午後には水辺で、堂々たる船が行くのを眺めたものだ、
そして、唇が触れ合った瞬間、私たちの魂は一つになった。

ああ、近しい人よ、浅はかな心よ!ああ、私のエイミー、あなたは去ってしまった!
ああ、わびしい、わびしい湿原よ!ああ、さびしい、さびしい海岸よ!

どんな空想よりも偽りだ、どんな歌よりも偽りだ、
父親の脅しの操り人形で、小うるさい母親の言いなりなんて!

あなたの幸せを願うのは良いことだろうか?―私を知っていながら―
私よりのものより低い感性と狭い心で!

それでも、そうなってしまうだろう/そのような人物と結婚したなら、あなたは日に日に彼のレベルまで落ちてしまう、
あなたの中にある素晴らしいものは、土と共感するために粗くなっていく。

夫のように、妻はなる/あなたはピエロと連れ添うのだ、
そして彼の粗雑さは、あなたを引きずりおろす重りになる。

彼の情熱が新鮮なものではなくなったとき、彼はあなたを抱くだろう、
犬を抱くよりも丁寧に、馬を抱くより少しだけ優しく。

どうしたことだろう?彼の目は重い/それはワインで曇っているのではない。
彼のところに行きなさい、それは義務だ、キスして、手を取りなさい。

夫は疲れているのかもしれないし、頭を使いすぎたのかもしれない:
あなたの素晴らしい空想で彼を癒し、あなたの軽やかな思考で彼に接しなさい。

彼はあなたの意図に応えてくれるだろう、簡単に理解できることなら―
あなたは私の目の前で死んでいた方が良かった、この手であなたを殺してでも!

あなたと私は、心の恥辱から隠れて横たわっていた方がましだ、
互いの腕の中を転げ回って、最後の抱擁とともに息絶えた方が。

若さの強さに罪を犯す社会的欲求に呪いあれ!
生きている真実から私たちをゆがめる社会的な嘘に呪いあれ!

自然の正しいルールから外れた(*上流階級の近親結婚による)病弱な体に呪いあれ!
愚か者の窮屈な額を飾る金に呪いあれ!

ああ―私が荒れ狂うのは当然だ―願わくば―こんなにも身分の差がなかったなら―私はこれまで、どのような妻も愛されたことがないほどに、あなたを愛したのだから。

苦い実しか結ばないものを大事にするなんて、私は狂っているのだろうか?
この気持ちはもう根を下ろしているが、私はそれを自分の胸から摘み取ろう。

必ずやそうしよう、騒がしくねぐらに帰る、数多くの冬のカラスのように
私の辛い長い夏がどれだけ押し寄せようとも。

慰めはどこにあるのか?心の記録のどの区画に?
彼女を彼女自身から切り離して、私の知る彼女のような人を愛することができるだろうか?

私は死んでしまった一人の女性を覚えている/彼女の言葉やしぐさは愛らしかった/
そのような人を、見た途端に好きになってしまったことを、私は覚えている。

彼女は死んだと思いながら、彼女に呼び起こされた愛ゆえに彼女を愛することができるだろうか?
いや―彼女は私を真実に愛しはしなかった/愛とは永遠の愛だ。

慰め?悪魔に嘲笑われる慰め!詩人(*ダンテ)が歌う真実はこうだ、
悲しみの中の悲しみは、幸せの思い出である。

あなたの記憶に薬を飲ませなさい、あなたがそれを習い覚えることがないように、あなたの心が試されることがないように、
静まり返った不幸な真夜中、屋根の上に雨が降っているときには。

彼の寝相は狩りをする犬のようだ、そしてあなたは壁を見つめている、
消えゆく夜のランプが明滅し、影が浮かんでは消えるのを。

その時、あなたの前を一本の手が通り過ぎ、酔いつぶれた彼の寝姿を、
あなたの使われなくなった夫婦の枕を、あなたが流した涙を指し示すだろう。

幻の年月の「決して、決して」というささやきが聞こえるだろう、
そしてあなたの耳の中に、はるか彼方から響く歌が聞こえるだろう/

そしてある目が、あなたの痛みを昔の優しさで見つめて、あなたを悩ませるだろう。
向きを変えなさい、枕の上で向きを変えなさい。もう一度眠りなさい。

いや、しかし自然はあなたに慰めをもたらす/かよわい声が叫ぶだろう。
それはあなたの命より純粋な命、あなたの悩みを飲み干してしまう唇である。

赤ん坊の唇の微笑みは私を黙らせる/私の最新のライバルはあなたに安らぎを与えるだろう。
蝋のような手触りの赤ん坊の指が、母親の胸から私を押しのける。

ああ、子供もまた父親に、彼にはもったいない愛情を寄せる。
半分はあなたのもの、半分は彼のものである/それは二人にふさわしいものになるだろう。

ああ、私はあなたが年老いて、堅苦しく、小さな役回りに順応しているのを見る、
小さな格言を山ほど使って、娘の心を説き伏せるのを。

「感情は危険な道案内―私は失敗しなかったけど―
本当を言うと、私自身も苦しんだのだけど」―死ぬまで自己満足しているがいい!

生き抜いて―低くとも―幸せになればいい!なぜ私が気にする必要がある?
絶望に打ちひしがれないよう、私自身も行動しなければならない。

このような時代に私が目を向けるべきものは何だろう?
すべての扉は金で固められていて、金の鍵でしか開かない。

すべての門は請願者でごった返し、すべての市場はあふれかえっている。
私には怒りの空想しかない/私にできることは何だろう?

私は敵の前で倒れて死にたいと思っていた、
隊列が霧に巻かれ、突撃ラッパが鳴り響いている中で。

しかし、ジャラジャラいう小銭は名誉が受けた傷を癒してくれる、
そして、国々は互いに背を向けていがみ合い、つぶやくだけだ。

悲しみに浸るしかないのだろうか?私は昔のページをめくる。
私の深い情動から私を守ってくれ、ああ、素晴らしい、母なる時代!

闘いの前に感じた野生の鼓動を感じさせてくれ、
私の行く手にある日々と私の人生の激動について聞いたときの/

向こう数年間の大きな興奮に憧れて父の畑を離れるとき、
私は熱い心を持つ少年だった。

そして夜、薄暗い公道をどんどん近くへ近くへと引き寄せられ、
わびしい夜明けのように揺らめくロンドンの光を見て、天にも昇るような気持ちになった/

そして、私の魂は自分の中に飛び込んで彼の目の前から消えてしまった、
あの光の下で、男たちの群れの中で:

それは常に新しいものを刈り取っている男たち、私の兄弟たち、労働者たちである:
彼らがやってきたのは、彼らがやろうとして、最も熱心にやってきたことだけだった。

人の目に見える限りの未来に私は足を踏み入れた、
そして世界の幻を、来るべき驚異の全てを見た/

空が商業、魔法の帆の大商船、
高価な積荷とともに降りてくる紫色の黄昏のパイロットたちであふれるのを見た/

天に満ちる叫び声を聞いた、
そして国々の海軍は真っ青な空で戦い、恐ろしい露を降らせた/

はるか彼方の、暖かさを運ぶ南風の世界規模のささやきを聞いた、
民衆の旗印が雷雨の中を突き進む/

人類の議会、世界の連盟の下に
戦鼓が鳴り止み、軍旗が降ろされるまで。

そこでは多くの人々の常識が、気難しい問題を畏怖とともに取り扱うだろう、
そして快い大地は、普遍的な法の下でまどろむだろう。

今や私は情動に勝利した、それが私を押し流し、
私を干からびさせ、私の心を麻痺させ、私の目を僻ませる前に/

僻んだ目で見るなら、全ての秩序は腐敗していて、ここにあるすべてのものは道を外れている:
科学はただ、ゆっくりゆっくり、点から点へと、忍び足で進んでいくだけである:

ライオンのように飢えた人々が、ゆっくりと忍び寄ってきて、
ゆっくりと消えていく火の後ろで、うなずきウィンクをする者をにらみつける。

しかし、私は時代を超えて、一つの高まりつつある意思が実行されることを疑わない、
そして人々の考えは、太陽の歩みとともに広がっていく。

しかし、若い日の喜びを収穫できなかった者にとって、それに何の意味があるだろう、
たとえ存在の深い心臓が、いつまでも少年のように鼓動していたとしても。

知識は来て、知恵は残る、そして私は海岸に残っている、
そして個人は衰え、世界はますます栄える。

知識は来て、知恵は残る、そして私は重い胸を
悲しい経験でいっぱいにして、安息の静けさに向かう。

おや、愉快な仲間たちがラッパで私を呼んでいる、
私の愚かな情熱は、彼らの軽蔑の的になるだろう:

そんな傷んだ弦の竪琴を弾くなど、私にとって笑い種ではないだろうか?
そんな取るに足りないものを愛したことを、私は私の全ての力で恥じる。

弱さに怒るのは弱いことだ!女の喜び、女の苦しみ―
自然は彼女たちをより浅薄な脳で縛り、より盲目的な行動をさせる:

女は男を小さくしたものであって、あなたのすべての情熱は私のそれと対になっている、
月光と太陽光、水とワイン―

少なくとも自然が病んでいるここでは、それは何の意味も持たない、ああ、逃げ込みたい
光り輝くオリエントの奥深くへ、そこで私の人生が始まったのだ/

マラーター(*インド)の激しい戦いで、私の父は不運な目に遭った。
私は踏みにじられた孤児だった、そして利己的な叔父に後見されてきた。

あるいは、習慣のつながりを断ち切って―はるか彼方を彷徨いたい、
夜明けとともに、島から島へと。

燃え上がるような大星座、芳醇な月、幸せな空、
南国の木陰の広がり、群生するヤシの木、楽園の住民たち。

貿易商は決して来ず、ヨーロッパの旗は決して翻らない、
鳥は艶やかな森を滑り、つる草は岩山から垂れ下がる/

豊かに繁った影を落とし、重い果実をぶら下げて―
ワイン色の海にある、夏のエデンの島。

そこには知性の行進、
蒸気船、鉄道、人類を揺るがす思想よりも大きな楽しみがあるだろう。

そこでは、束縛された情熱はもはや、幅を利かせることも、息もできない/
私は野蛮な女と連れ添う、彼女は浅黒い私の子を育てるだろう。

強靭な関節と、しなやかな筋肉を持った彼らは飛び込み、走る、
野生のヤギの髭を捕え、太陽の下で槍を投げつける/

オウムの鳴き声に口笛を返し、小川の虹を跳び越える、
弱い視力で価値のない本を熟読したりはしない―

愚か者め、また夢か、空想か!だが、私の言葉が乱暴なことは分かっている、
しかし、私は灰色の野蛮人をキリスト教徒よりも下に見ている。

狭い額の人々と群れている私は、輝かしい報酬を得ることができない、
快楽の少ない獣、苦痛の少ない獣のようなものだ!

さもしい野蛮人と連れ添ったところで―私にとって太陽や気候が何だろう?
私はあらゆる時代の後継者で、時代の最前線にいるのに。

私はむしろ、人が一人ずつ死んでいったほうがいいと考えている、
ヨシュアが止めたアヤロンの月のように、地球がじっと立ち止まっているよりは!

距離の標識を無駄にしないで、前へ、前へと、進んで行こう、
大いなる世界を(*蒸気機関車のように)、変化に鳴り響くレールの上で、永遠に回し続けよう。

地球の影を通り抜けて、私たちは新しい時代に突入する/
シナの歴史の全てよりも良い、ヨーロッパの五十年である。

母なる時代(私は自分の母を知らないが)は、人生が始まったときのように私を助けてくれる:
丘を切り込み、水を巻きあげ、稲妻を閃かせ、太陽の重さを量れ。

ああ、私の魂の約束の三日月はまだ沈んでいない。(*沈む前に満月にしてみせる)
インスピレーションの泉はまだ、私の創造的空想のすべてを貫いている。

いずれにせよ、ロックスリー・ホールとは永の別れだ!
今や、私ゆえに森は枯れ、今や、私ゆえに屋根の梁は落ちるかもしれない。

端の方から霧がかかってきて、ヒースと雑木林を黒くしている、
その前にはすべての突風が、その胸には稲妻が詰め込まれている。

ロックスリー・ホールに落ちるがよい、雨か雹か、火か雪とともに/
海辺で吠える大風が立つだろう、そして、私は行く。

 

2023.10.23