The Flight 逃避行

 

The Flight 逃避行

 

I.
眠ってるの?忘れたの?眠らないで、愛する私の妹!
どうして眠ってられるの?朝が、私が忌み嫌い、恐れるあの日を連れてくるというのに/
雄鶏はもう一回鳴いたわ、早鳴きしたのよ/
起きて!薄明かりが忍び込んで、丘が霜で白くなってるわ。

II.
ああ、抱きしめて、妹でしょ、ねえ、その胸に抱き寄せて!
ああ、もう一度心ゆくまで泣かせてね、泣き疲れて眠らせて!
眠るって?眠ったまま二度と目覚めない眠りのほうがマシだわ、
毎朝目覚めて、あの忌まわしい顔を見るよりは。

III.
あの安らかな眠りが羨ましかった。一晩中とっても穏やかに眠ってたわね、
夜は穏やかで、朝も穏やか、まるで普通の一日みたい/
けれど私は、あの低く唸る海が立ち上がって、岸に砕けたらいいのにと思う。
吹いたことのないほどのつむじ風が、この森を吹き荒らしたらいいのに。

IV.
かすかに光る窓ガラスの向こうで、星が一つ、また一つと沈んでいった。
次から次へと計画が浮かんだけど、みんな虚しく消えてしまったわ/
スピノサスモモの花は色あせて落ち、苦い実を残すだけ、
私が掴もうとする希望は消え去って、若さは悲しみに変わるの。

V.
ねえ、少しは慰めて!一晩中、涙を流して祈ったわ、
けれど慰めは来なかった、そしてもう、朝がやってくる、
私を奴隷として買い取ったあの男が、私をあなたから引き剥がす朝が。
お父様は、私を差し出して借金を払い、私を墓場に嫁がせるのよ。

VI.
あの夏の日、遊びで登った岩から私が転げ落ちた時、
私が死んだと思ってうめき声を上げ、
抱き上げて何度も口づけしてくれた、
あの方が今のあのお父様なのかしら/あの時は、私のお父様だったのに。

VII.
今はもうお父様じゃない、残酷な悪徳に仕える暴君の家来だわ!
不信心なエフタは我が子を捧げたわ…サイコロの一振りに。
この昔からの森も、この屋敷も、ついには無くなるわ―いえ、無くなることでしょう、
従順な娘が、自分の命と心と魂を、あの男に捧げないならば―

VIII.
私に軽蔑されていることを知っているあの男に。ああ、うわべだけの嘲るようなお辞儀、
残忍な微笑み、悪意を隠す優雅な物言い―
けれど、その流し目にはいつも、あらゆる邪悪な光が宿ってる―
嫌がっている花嫁を娶るのは、愛ではなく憎しみだわ/

IX.
その憎しみは、この真実な胸から私のロケットさえ奪おうとするでしょう。
編み込まれたエドウィンの髪の毛が入っている、この大切な水晶を!
彼が行ってしまう前にくれた、たった一本の黄金の巻き毛の上で―
この心臓を生かし続けてる愛は、昼も夜も脈打ってるわ。

X.
彼は森で泣いている私たちを残して行ってしまった/舟は砂浜にあった/
岩を降りていく彼の足取りが、なんて重く、名残り惜しそうだったことでしょう!
夕日に向かう光の道を白い帆が進んで、
そして翳るのを見たとき、私の人生のすべては暗転したの。

XI.
西に沈んで、そしてあの至福の小島や島々に行ってしまったエドウィンを
追いかける夕日を、二人でどれだけ眺めたことでしょう!
彼はそこにいないの?私もそこに行けたらいいのに。友人として、花嫁として、妻として、彼と一緒に、終わらない夏に、人生の太陽「愛」と一緒に!

XII.
ああ、エドウィンの腕に抱かれたい―もう一度だけ―
頬に吐息を感じたい―エドウィンの船で、エドウィンと一緒に、死んだっていい。
たとえ揺れ動く難破船の周りで、白い海が死のように荒れ狂ったって、
もし、波の枕の上で、唇と唇を重ねていられるのなら。

XIII.
あの男を受け入れろっていうの?一緒に膝をついて、誓いを立てろっていうの?
最も嫌っている奴を愛し、軽蔑している奴を敬うっていう偽りの誓いを?
悪魔は叫び、お墓は口を開け、お母様の亡霊は立ち上がるでしょう―
嘘をつくなんて―神様の家で―この世で一番卑劣な嘘をつくなんて!

XIV.
あの男の手を握るくらいなら、たとえ心臓が凍りついたって、
不潔な病気で死んだ冷たい死体を抱いた方がマシだわ。
結婚?しないわ。家を追い出されたって構わない、
荒れ果てた荒野を、死ぬまで彷徨ってやるわ。

XV.
婚礼の夜に花婿を刺した、あの愛すべき狂った花嫁―
彼女が狂っていたのなら、私も狂っている。でも彼女が正しかったのなら、私も正気よ。
お父様の狂気が私を狂わせる―けれど言葉は言葉でしかない!
私は狂っていない、まだ、完全には―ほら、聞いて、鳥たちが

XVI.
あの芽吹き始めた果樹園でさえずり始めるのを!
ひばりは朝の風に乗って、地上から天に昇っていった!
私もあの中の一羽だったなら、どんなに喜んで、どんなに早起きしたことでしょう。
けれど、私が抱えるこの悲しみは、彼のための悲しみ。

XVII.
鳥たちは歌いかける相手を愛している/
そうでなきゃ、朝を迎えるあの音楽みたいな歌声が、あんなに甘いはずないわ!
父親たちが耳を貸さなくても、祝福された天は公正よ、
愛は炎。それを踏みにじろうとする者の足を焼いて灰にするの。

XVIII.
屋敷のドアが開いた―誰?誰なの?お父様は眠っているはず!
忍び足で階段を上ってくる!あいつが―誰かが―こっちへ這ってくる!
もしあいつなら?そう、あいつが…潜んで、聞き耳を立てて、獲物を逃がすまいとしている―。
あいつだわ!何か鋭く尖った物はない?入って来たら、私が死んでるところを見せてやるわ。

XIX.
あいつじゃない、まだだわ!動くなら今よ―けれど、こめかみが燃えているみたい!
とりとめのない空想が私を揺さぶって、どこに向かえばいいのか分からない/
話して、ねえ/相談に乗って/この結婚はあってはならないの。
この世界を私にとってかけがえのない世界にしてくれる愛を知ってるのは、あなただけ!

XX.
優しいお母様が生きていて下さってたら―でも私たちは二人取り残された。
お父様は私たちを放ったらかしだった。自分の子供たちのことなんて構わなかった/
だから夏の間ずっと、私たちはこの手つかずの森をさまよったわね。
エドウィンは私たちのことを「手つかずの森の二輪の花」って呼んでたわね。

XXI.
神様の自由な光と空気の中で、寄り添って咲く手つかずの花、
エドウィンが私たちを見つけた、秘密の森の手つかずの花、
彼と一緒に歩いて、彼の情熱的な誓いを聞いたあの手つかず森、
今、私たちが離れ離れになったなら、もう二度と歩くことのないあの森!

XXII.
私をこんな悲しみの中に置き去りにして、独りで彷徨わせないで/
私たち、生まれてから一度だって口喧嘩したことなかったわね/
亡くなるときお母様は私たちに手を繋がされたわ/お母様はお父様のことをよくご存じだった/
お母様はこの絆を愛するようにおっしゃったわ、天国の魂みたいに。そして今、私は地獄から逃げ出すの、

XXIII.
そしてあなたも一緒に/私たちは寂しい海岸に辿り着くわ、
荒涼とした砂丘の小屋で、海鳴りを聞くの、
そして西から泡を蹴立ててやってくる船を、
ついにエドウィンを連れて帰ってくるあの帆に、太陽が輝くのを見るの。

XXIV.
見て、夜明けが急ぎ足でやってきて、古い教会の塔を照らしている、
時計を照らしてるわ!針は五時を指してる―ああ、鐘が鳴る―
もう待てない。どんな災いが降りかかっても、私は運命に立ち向かうわ!
起きて、私の、私だけの真実の妹、外に出ましょう!世界は広いのよ。

XXV.
それでも、心は落ち着かない、瞳は涙で潤んでる、
あのイチイの木のそばに、新しく掘られたお墓が見えるような気がするの!
もし私たちが二度と戻らないで、手と手を取り合って、
張り裂けそうな心で、友達もなく、遠い異国を彷徨うことになったとすれば。

XXVI.
ああ、可愛い娘。世間は厳しくって、冷たいものだって言うけれど、
本来優しくあるべき人たちみたいに、厳しく、冷たいことってあるかしら?
そんなことどうだっていい。何が起こったっていい/最後には必ず終わりが来る、
そして、真実の愛を持つ心は皆、耐え抜く力を持っているのだから。

 

 

・エフタは旧約聖書の士師で、戦いの勝利の代償として「一番先に家から迎えに出てきた者」を神に捧げると誓い、一人娘を犠牲にすることになりました。ここでは金のために娘を差し出す父親の批判に用いられています。
・狂った花嫁はウォルター・スコットの小説「ラマムアの花嫁」の主人公のことと思われます。騙されて結婚した花嫁がその夜、花婿を刺殺します。
・コリント人への手紙13章7節「(愛は)すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてを耐える。」
2025.12.21
https://www.telelib.com/authors/T/TennysonAlfred/verse/tiresias/flight.html

 

| カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : 上田エリヤ