The Northern Cobbler 北の靴修理屋

 

The Northern Cobbler 北の靴修理屋

 

I.
サリーが帰ってくるまで待ってろ、話したいことがたくさんあるだろうからな。
ああ、お前が元気そうで本当に嬉しいよ。
「太陽の真下の、放埓な国に投げ出された!」
船乗りってのは不思議なことを見たりしたりするもんだな/
「何か飲むものはないか―いかしたやつは?」アダムのワイン(*水)しかない。
この小さな丘の斜面の暑さは、赤道の暑さに比べてどうだ?

II.
「そこにある瓶は何だ?」教えてやろう。ジンだ。
だが、お前がグロッグ(*水割り)を飲みたいなら、居酒屋に行ってくれ。
いや―本当に嬉しいんだが、たとえどんなに喉が渇いていても、
その瓶のジンはお前にはやらない。理由を教えてやろう。

III.
俺がお前の姉さんと結婚したのはいつだっけ?六月の終わり頃だった。
十年前だ。良く調律されたバイオリンみたいにうまくやっていた/
俺は古いブーツや靴の底の張替えが誰よりも上手かった、
サースビー・トーンからハームズビー、ハッタービー・ホールの間の誰よりもだ。
花盛りのミツバチみたいに忙しく、心は最高に幸せだった。
そして、赤ん坊が生まれ、俺は酒を飲むようになった。

IV.
否定はしないよ、うん。今は少し恥ずかしいけどね。
「北斗七星」ではいい歌を歌えた。いい歌を歌えたんだ「北斗七星」では/
霜の夜に滑って尻を痛めたこともあったけどな、
完全に酔っぱらっちまって、仲間と一緒に頭から肥溜めに落ちたこともあった/
仕立屋と喧嘩したこともある―半人前以下の野郎だったよ、うん―
奴が猫みたいに俺の顔をビリビリに引っ掻いたんで、彼女は頭にきた。
サリーは口うるさく俺を叱った「脳みそを酒に浸して、
飲んだくれて、びしょびしょになって、タバコを吸って、道端でぶらぶらして、
地主様に会っても帽子も取らない/」
自分の鼻を斜めに見たら、燃えてるみたいに真っ赤だった/
いつも酒浸りだったし、いつも王様みたいに飲んでいたもんだから、
客は糸の切れた凧みたいにいなくなってしまった。

V.
サリーは生活のために他人の洗濯をした。
ああ、でも彼女は俺を信じていたせいで、俺によけいに酒を飲ませることになった。
サリーが背中を向けている隙に、俺は彼女が隠してた古い長靴下を見つけたんだ、
俺は彼女が稼いだ金を掻っ攫った、そしてそれを酒に使っちまったんだ、やっちまったんだ。

VI.
ある晩、俺は市場から逃げ出した雄牛みたいに帰ってきた。
彼女は泣きながら、髪を掻きむしりながら、俺を待っていた。
俺は揺りかごにつまづいて転んだ、そして腹を立てて
家中の家具をバラバラにする、と喚いた、そしてサリーを蹴った。
テーブルと椅子をめちゃくちゃにした。彼女と赤ん坊は泣き叫んだ。
死にかけの野獣みたいに、俺は訳が分からなくなっていたんだ。

VII.
朝起きると、サリーがびっこを引いていた。
俺が蹴ったせいだ。とても恥ずかしかった。
サリーは腑抜けたように、古びた寝間着を引きずっていた。
赤ん坊の顔は汚れていて、家中がひっくり返っていた。

VIII.
俺はサリーが可愛くて、きれいで、素敵だった頃を思い出した。
柱みたいにまっすぐで、頭からつま先まで花みたいに真新しかった。
サースビー・トーンで初めて彼女にキスした時のことを思い出した。
日曜の朝にヒバリが最高の歌を歌っていた。
姿は見えなかったが、高く舞い上がっていく声が聞こえた。
そしてヒバリは太陽に近づいて、火の粉みたいに輝いた。
「見える?」と彼女は聞いた。「私には見えるわ」と。でも
俺には彼女の可愛い青い目に映る太陽の微笑みしか見えなかった。
俺が「キスさせてくれ」と言うと、サリーは「だめ」と言った。
でも俺はキスした、そして、もう一度キスをした。サリーは「やめて!」と言った。

IX.
日曜礼拝で、彼女ははじめ変な顔をしていた。
でもその後、一緒に賛美歌を歌った。木の枝にとまった鳥みたいに。
マギンズは地獄の炎と神の愛について説教をした。
そして、帰り際にサリーはキスしてくれた。

X.
キスからキックへの転落は、
まるでサタンが天国から地獄に落ちたようなもんだ―地獄に酒はないだろうが/
ドアから狼を追い払うみたいに、俺がサリーを蹴ったのは、酒のせいだ。
俺は前と変わらず、彼女を愛してたんだから。

XI.
大きな木偶の坊みたいに、俺はベッドで泣きじゃくった―
「二度としない」と言うと、サリーは顔を上げて言った、
「信じない。あなたも他の男たちと同じよ。
また酒の匂いを嗅ぎまわって、同じことをするわ。
酒はあなたの敵よ。私はあなたをよく知ってる、
それを見て匂いを嗅いだら、地獄の底までついていくでしょうね」

XII.
「いや、もう酒の匂いを嗅ぎまわらない」と俺は言った。
「そうかしら?」と彼女は言った。俺は心の中で「たぶん」と思った。
「いや」と言って、俺は弾丸のように走り出して、居酒屋に行った。
そして、そこにあるやつを持って帰ってきた。大きな黒いジンの瓶を。

XIII.
「気絶しそう」とサリーは言った。そして泣き出した。
だが、俺はそれを彼女に渡して「サリー」と言った。
「主のみ名とみ恵みの力によって、それをそこに立ててくれ。
そこに立ててくれ、俺が敵の顔をまっすぐに見られるように。
それを窓際に立てて、俺に見せてくれ。
水みたいにしか見えなくても、それは悪魔そのものだ」

XIV.
気分が落ち込んで、仕事も何もできなかった。
不快で、イライラして、手が震えて、錐で手を突いてしまった。
でも彼女が俺を慰め、俺の膝の上に座ってくれて、なだめすかして、優しくしてくれたんで、
俺はやっと、もう一度自由になれたような気がした。

XV.
サリーはそれを周りに言った、それで道行くやつらがみんな立ち止まって、物珍しそうに覗き込んだ。
まるでそれがジンのクォート瓶じゃなくて、魔法をかけられた何かみたいだった/
水だと言うやつもいた―俺が妻に嘘をついていると。
命と引き換えにしても、ジンを手離さなかった俺だからな。
鍛冶屋は腕をまくって、その太さを見せ、
「触ってみろ!水なんか飲んでいたらこうはならない!」と言った。
医者は日曜日、ろうそくに火を灯す頃に、訪ねてきて、
「こういうやり方は良くない」と言った「少しずつ、少しずつやめなさい。」
牧師は「あなたは単なるメソジストに過ぎない」と言って、帽子を置いた。
そして、ジンの瓶を指して「しかし、あれについてはあなたを尊敬する」と言った/
地主様ご本人もお屋敷から歩いてきて、
俺の手を叩いて「尊敬する」と言った。
そして、風のように速く広く客足が戻ってきた。
そして、この辺の底を張り替えるブーツの半分を俺のところに持って来た。

XVI.
それはそこにある。そして、俺が死ぬまでそこにあるだろう。
俺はそれを、また違った意味で愛するようになった。
それを誇りに思っている、うん、俺はそれを綺麗に磨いてピカピカにしている、
それを愛して、拭いて、埃を払って、光の中に置いている。

XVII.
パイント瓶でもよかったんじゃないかって?確かにな/
でも、俺はもっと大きな足かせと戦いたかったんだ。そして戦い抜いた。
もし味見したならば、さぞかし美味いことだろう。
だが、だめだ。絶対に飲まない。本当に自分を恥ずかしく感じるだろうからな。

XVIII.
一度、女房に言った「俺が死んだら、
瓶を粉々に砕いてくれ。あいつには悪魔が宿っている」と。
だが、その後、考えを変えた。もしサリーが後に残されるのなら、
それを俺と一緒に埋めさせて、神の御前に連れていくことにする。

XIX.
こっちに来い―通りを歩いている女がいる。
知ってるだろ―とても可愛くて、立派で、きれいで、素敵な彼女を?
服を見てみろ。ほとんどまっさらな新品だ。
トミーの顔は、朝露に洗われたリンゴみたいにつやつやしてる。

XX.
サリーとトミーだ。晩飯を一緒に食おう。
ベーコンとジャガイモ、そしてベスリングのプリンとアダムのワインだ。
でもグロッグを飲みたいなら、居酒屋に行くんだな。
やつの血は一滴も流させない。たとえサリーの身内のためだったとしてもな。

 

 

2025.5.24
https://www.telelib.com/authors/T/TennysonAlfred/verse/ballads/northerncobbler.html