The Miller’s Daughter 粉屋の娘

 

The Miller’s Daughter 粉屋の娘

 

裕福な粉屋を今も思い出す、
 あの二重あご、あの恰幅の良さを、
そして彼を知る者の誰が
 あの目の周りのよく動くシワを忘れるだろうか?
世間によく慣れた、
 半ば外に、半ば内に向けられたような、
粉まみれの額にひびが入る
 あのゆっくりした賢い微笑みを誰が忘れるだろうか?

古い銀のカップを三本の指でつまんで、
 彼があの椅子に座っていたのを思い出す。
冗談を言ってはきらめく
 あの灰色の瞳を今も思い出す—
夏の暖かさに満ちた、とても嬉しく、
 とても健康で、健全で、澄んだ、
そのすべての思い出が決して私を悲しませることのない
 魂の夏の稲妻が光る灰色の瞳だ。

それでもグラスをついでくれ:キスを一つくれ:
 私の甘美なアリス、私たちは死なねばならない。
この世には何か間違っているところがある
 それは徐々に解き明かされるだろう。
人生で私たちの手に入るものがある、
 しかし、それ以上に奪われるものがある。
祈ってくれ、アリス、祈ってくれ、私の愛する妻、
 私たちが同じ日に死ぬことができるように。

私は幸せに暮らして来たのではなかったか?
 私は苦しみを吐露すべきではないだろう。
神が私をもう一度生まれ変わらせて下さるとしたら
 私は私の人生をもう一度生きるだろう。
それはとても甘美に思える、あなたと歩くこと、
 そしてもう一度あなたに愛を求めること—
それはクルミとワインを楽しみながらの
 食後の会話のように思える—

遅くに生まれた地主の遺児として
 長身の物憂い少年に育って、
村の尖塔を見下ろす
 この高台にある古い邸宅で暮らすことは:
私とあなたが
 長い間暮らし、愛してきたここでさえ、
毎朝、私の眠りを破るのは
 野のひばりの朝の歌だった。

そしてしばしばもみの木の森で
 朝の優しい鳩の声を聞いたものだ/
しかしあなたの目に出会う前に、愛しい人よ、
 私が自分から動いたことはなかった。
なぜならあの心地よい夢を見る前には
 私の人生に空想など存在しなかったからだ—
あの流れの中の苔のように
 あちらこちらとただ虚しく揺れているだけだった。

あるいは、水車堰からの騒々しい流れを聞き、
 そして透き通った渦のいたるところで
閃き、舞っている小魚、
 踏み石の下の高さに咲いた
背の高いアヤメ、
 あるいはその近くの乳白色の実を沢山ぶら下げた
あの三本の栗の木を見るために
 橋から身を乗り出しているようなものだった。

しかし、アリス、あれはどんなときだっただろうか、
 私が森をさまよった後
(四月だった)その新芽が爽やかに
 青くきらめいている
栗の木の下に来て、座ったのは/
 そして、ぼんやりした愚か者のように、
私は斜面に寝転がって、あなたのことなど思いもよらず、
 高い方の池で釣りをしていた。

どこかで読んだ愛の歌、
 韻律を持つ調べのこだま、
脳の奇妙な一角が
 意味もなく打つ拍子。
それは、朝の間、
 単調な韻の退屈さで私につきまとった。
沈黙の歌の幻影が、
 千回も現れては消えて行った。

とのときマスが跳ねた。怠惰な気分で
 私は消えてゆく小さな輪を見ていた/
それらはゆるやかに流れて行った、
 そのとき私の目にある景色が飛び込んできた/
水に映った美しい姿、
 輝く腕、きらめく首、
それは暗い小川のさざ波に揺れる
 暖かな陽光のようだった。

覚えているだろう、
 あなたはその朝、窓辺にいた、
長い灰緑色の開き窓だった、
 そしてあなたは身を乗り出していた
そして私が見上げたとき
 私の目は二つの―とても大きな、明るい—
目に会った!誓って言おう、愛しい人よ、
 それらは決してその光を失っていない。

私は愛した、そして愛は
 私の早く死ぬことへの恐れを拭い去った。
愛は空気を持っていて、
 胸をより純粋な息でいっぱいにした。
母は思った、この子はどうしたのだろう?
 私が人が変わって、そして家の周りを楽しそうに、
そして確かな男の足取りで
 うろつき始めたものだから。

私は水車小屋の周りの
 静かな牧草地いっぱいに渡ってゆく草の波を、
堰の上の眠っている池を、
 決して静まることのない下の池を、
白くなった床の上の粉袋、
 水車の黒い輪、
舞い上がる粉で霧のようになった
 ドアの周りの空気さえも愛した。

そして四月の夜風が吹き始め、
 四月の三日月が冷たくきらめく頃、
高原をさまよう途中で、
 私はしばしば下の村の灯りを見た/
遠くてもあなたの灯りは分かった、
 そして心を震える希望でいっぱいにして、
私は高原を降り、
 新しい花が咲いた斜面に横になった。

深い水流は水車小屋の下で軋んでいた;
 そして「ランプのそばに」と私は思った「あの娘が座っている!」
丘の上の白いチョークの採石場は
 時折思い出したように月を照らしていた。
「ああ、今あの娘のそばにいられたなら!
 ああ、私が呼んだらあの娘は答えてくれるだろうか?
ああ、私が誓ったなら、あの娘も誓ってくれるだろうか、
 甘美なアリス、もし私がすべてを話したなら?」

時々私はあなたが座って紡いでいるのを見た/
 そして、風が止んでいるときに時々、
あなたが家の中で歌っているのを聞いた/
 あなたの影は時々ブラインドを横切った。
ついにあなたは立ち上がって光を動かした、
 そして椅子の長い影は
夜の中へと飛び去った、
 そして窓全体が暗くなった。

しかしついに私が話す勇気を持ったとき、
 あの道は、覚えているだろう、白いサンザシでいっぱいだった、
あなたのふっくらした唇は動かなかったが、あなたの頬は
 日の出のように赤くなった/
そして—半分いたずらっぽく、半分恥ずかしそうに、
 あなたは、はい、とも、いいえ、とも言わなかった、かわいい人!
私が優しく懇願したにもかかわらず、
 そしてあなたと私は二人きりだったにもかかわらず。

そして私の母はゆっくりと
 私の願いを許すようになった:
彼女は私の幸せを望んでいたが、
 もう少し高望みができたかもしれない、と思っていた/
そして私は若かった—結婚するには若すぎた:
 「でもあなたのために、私は彼女を愛さないといけませんね/
あなたのアリスを連れていらっしゃい。」と彼女は言った:
 言いながらその瞼は震えていた。

そして私は花嫁を迎えに行った:
 しかし、アリス、あなたは落ち着かなかった/
この服もあの服もあなたは順番に試した、
 気に入られないことを恐れ過ぎていたのだ。
その恐れゆえに私はあなたをより愛するようになった、
 あなたがよく見えないはずがないことは知っていた/
そして、涙になって落ちたであろう雫が落ちる前に、
 私はそれをキスで拭い去った。

どぎまぎしていることが母に
 悟られないかと気にするあなたを私は見守っていた/
彼女は沢山のことをあまねく話した、
 そして最後に彼女は私のことを話した/
そして振り返って、
 このドアの近くに離れて座っていたあなたの顔を見た、
そして立ち上がって、静かな優しさで
 近づいて、あなたを胸に抱きしめた。

ああ、そうだ—私があなたに歌った
 あの馬鹿な歌を歌ってくれ、アリス、あの日
腕を組んで、物思いにふける夫婦のように、
 私たちは歩いた、そしてあなたは花嫁のブーケで
華やいでいた—私はそう、
 沢山の実をつけた栗の木がささやく夜更けに、
流れの中の水車の傍にいたときの
 ように見えたかもしれない。

 あの子は粉屋の娘、
 とても、とても可愛い、
 あの耳に揺れる
 宝石になりたい。
 巻き毛に隠れて、昼も夜も、
 暖かな白い首に触れたい。

 ガードルになって
 華奢な、華奢な腰に巻かれたい、
 悲しみと安らぎの
 胸の鼓動を感じたい。
 ちゃんと打っていたなら、
 ぎゅっと抱きしめたい。

 ネックレスになりたい、
 笑い声やため息で
 あの芳しい胸を
 一日中、上下したい。
 とても、とても軽くて、
 夜も外されない。

くだらなくて、甘美だ!真実の愛だけが正しく綴り—
 真実の愛だけが正しく演出したものだ―
その光は字義に宿っている、
 なぜなら真実の愛はすべての心の所有者だからだ。
だから、もし私が今無駄口をたたいているなら、実際
 あなたは愛を責めなければならない。その初期の猛威は
若い私に韻を踏ませる力があった、
 そして年取った私をおしゃべりにしている。

そして今、あの鮮やかな時間は過ぎ去った、
 私にとって私の人生はそうだし、あなただってそうだ、
そして過去と現在は一つに絡み合って、
 心のための花冠を作る:
だから栗の木陰で
 青い忘れな草を見つけた日、
自分の幸運に半ば怒って、
 私が作ったもう一つの歌を歌ってくれ。

 私たちは愛の網に捉えられている、
 それが消え、忘れ去られることがあるだろうか?
 沢山の太陽は昇って、沈んでゆく。
 沢山の年月は機会を与える。
 贈られた愛は、負債になる愛。
  それでも。

 愛は争いと苛立ちに傷つく。
 愛は漠然とした後悔に終わる。
 目は甲斐なき涙に濡れている。
 気まぐれは今も私たちを結びつけている。
 愛とは何だ?どうせ忘れてしまうのに:
  ああ、いやだ!いやだ!

私の目に映るあなたの目を見てくれ。真の妻よ、
 私の真実の心にあなたの腕を絡ませてくれ。
私の生命の中の、もう一つの、より親愛なる生命よ、
 あなたの魂で私の魂を見てくれ!
どれだけ月日が通り過ぎても、
 その優しい目に永遠に変わりなきように!
私がそれをよく知るようになってから
 愛しい目よ、それは多くの涙を流さなかった。

それでも涙を流したことはあった:悲しいことも
 あった:時が来て、
心の中の静かな愛情は
 外に向かって呼吸するようになった、
そして再び静寂が訪れたとき、
 以前には存在しなかった空虚が残っていた/
その喪失は私たちに痛みをもたらした、
 しかし、その喪失は私たちをさらに愛させ、

さらに遠くを見させることになった。キス、
 編み込みのアームチェアは、
私があなたの中に見る、落ち着いた至福、
 慰めの弱々しいシンボルに過ぎない。
しかし—二つの魂から同じ一つの心を作り上げた—愛しいあなたに
 希望や思想を超えた祝福を
いかなる言葉をも超えた祝福を、
 神よ、祝福を与えたまえ。

立ち上がって、散歩に出よう、
 高原を越えてあの古い水車小屋まで/
外をご覧、夕焼けが、北から南まで、
 谷全体をバラ色のカーテンで包んで、
そしてあなたの細い窓ガラスに火をつけ、
 その下の暗い池にまで映っている:
チョークの丘の、ウサギ足草は
 乾いていて露もない。行こう。

 

 

2025.7.27
https://www.telelib.com/authors/T/TennysonAlfred/verse/ladyshalott/millersdaughter.html

| カテゴリー : テニスン | 投稿者 : 上田エリヤ